私は貴方の申し出を断りました。
こんなに後悔することとは思ってなかったのです。
3年前のあの日、貴方は私にこう言ってくれました。
「そろそろ、身を固めたいと思っている」
私には、それが結婚の申し出に聞こえました。
騎士の家系に生まれ、容姿端麗で勉学もできる。
そんな貴方が万騎長に就任した時には、盛大な宴が開催されましたね。
私は貴方と10も歳が違います。
貴方はずっと私のことを妹のように思っていると感じていました。
だから私は、貴方にそう言われたとき、上手く言葉を紡ぐことができませんでした。
「…あの、シャプール様のことは…本当の兄のようだと…」
それだけで貴方は、悟ったかのように悲しく微笑みましたね。
私にとって、その笑顔は今も鮮明に思い出せるものになりました。
あれから3年。
貴方は他の女と結婚することもなく、ただ武人として戦に出る日々でしたね。
私も同じく、結婚することなく、ただ日々を生きていました。
ちょうど、アトロパテネへ向かう前夜。
偶然貴方と再会したのはきっと神様の悪戯でしょう。
でないと、私は一生、いえ、死んでも神を恨み続けることになりますから。
「…」
「あ、シャプール様…」
「久しいな」
「お久しぶりです」
「元気か?」
「えぇ、そこそこに…」
「明日から大きな戦だ」
「はい、存じ上げております。お気を付けて…」
「あぁ…この戦が終わったら、少し、時間を貰えないか?」
「え?」
「に…聞きたいことがある」
「…はい、承知いたしました」
貴方は、貴方から申し出た約束を破りましたね。
貴方の最期はとても、見事でした。
ただ、私は、涙で何も見えず、何も考えることができませんでしたが。
私への聞きたいことってなんだったんですか?
私を置いて、遠くへ行くなんて、卑怯ではないですか。
何故、貴方はいつも、私の希望を聞いてくれないのですか?
今の私は…
いえ、ずっと前、貴方と初めて出会ったあの日から私は、
貴方なしでは生きられないのに。
貴方に生かされていた
私もそっちへ逝きます
そういうと、貴方は目を見開いて怒鳴るでしょうね
貴方なしで生きるなんて、
これほどの生き地獄、ほかにあるでしょうか?
2016/11/03