何故戦う?

何度問われただろうか。

世界のためか

愛する人のためか

それとも自分のためか


答えは未だに闇の中だ。









※   ※   ※









カツカツとヒールの音が暗い廊下に木霊する。
深夜の教団は、誰も歩いていない…
というのは嘘で、ただラボに缶詰め状態なだけ。
部屋には明かりがついているし、たまにガラスの割れる音がする。

あぁ、またジョニーがやらかしたのか

と心の中で思いながら、私は談話室の敷居を跨いだ。
談話室のランプが小さくゆらゆら揺れている。
奥に設置された豪華な暖炉には、先ほどまで燃えていたのだろうか、少しだけ、薪がくすぶっていた。
暖炉に一番近いソファに腰を沈めると、「はぁ〜」と深いため息が漏れる。


最近、私は休みなく任務に出ていた。
勿論、エクソシストの数が足りていないのも原因の一つだったが、
それ以外に自ら手を上げて任務を請け負っていたのだ。
コートを脱ぎ棄て、床に捨てる。
身軽になった身体でソファに横になった。
すると、ふと目に入ったのがコートを投げ捨てたときに出てきたのだろう、アルミ製のピルケース。
中には白く丸い薬が入っている。




丹薬





それは私の命を繋ぐものであり、忌むべきものだ。
この世に意識が堕ちたときからずっと、身体に取り入れてきた。
私がこれが大嫌いで。
これがないと生きられない身体であること自体も大嫌いだった。








「これを飲まなければ…どうなるんだろう…」
…死ぬ

「お前はこれを飲まないと死ぬだろーが」
「ユウ…」







いつの間にかいたユウ。
彼は私の横に腰を下ろした。
彼もコートを着ていない。
きっと自室で休んでいたに違いなかった。







「なんで来たの?」
「…別に」
「理由、ないわけないじゃん」
「…」
「これ、飲んでるか確認しに来たんでしょ?」
「…」
「図星、ね」








私はキッとユウを睨み、机の上にピルケースを叩きつけた。







「どうせコムイが言ってたんでしょ。
 『最近、新しい丹薬を取りにこない』とかなんとか」
「…あぁ、そうだ」
「あんた、なんでコムイの使いパシリしてんのよ」
、なんで飲まないんだ?」
「…」
「もう限界超えてんだろ」








ユウは有無も言わず私のシャツをめくった。
包帯でぐるぐる巻きにされた腹部があらわになる。
その包帯は血で滲んでいた。








…ほっといてよ
「俺がお前をほっとけるわけねーの、知ってんだろーが」
「…それは私がユウと『同じ』だから?
 それともアルマと『同じ』だから?
「っ!!!
「だってそうでしょう!?私はできそこないなのよ!
 できそこないは早く死ぬ運命なの!だから…!








だから…自分からそうなるように…








私はぐっと最後の言葉を飲み込んだ。
ソファから勢いよく起き上がると、自分のコートを掴み、談話室を後にした。
あとからユウが追ってくる様子はなかった。

自室の、自分のベッドで無機質な天井を見つめていた。
窓から入る月明りが唯一の光で。
それに手を伸ばしても、青白い腕が一層、白く映るだけだった。
ギィと部屋のドアが開いた。
ユウがピルケースを持ってやってきたのだ。
私は目を閉じ、寝たふりを決め込んだ。
コトっと机の上にケースを置いた音がした。

余計なことを…

内心そう思いながらも目を閉じ続ける。
ふとユウが私の髪に触れた。
その手は頬を伝い、首で止まった。







「…そんなに死にたいなら…俺がお前を壊してやる。
 だが、まだ俺はお前に壊れてほしくない…
 お前を俺の…唯一の理解者だ…
 同じように生まれ、同じように使われ、同じように壊れていく運命なんだ
 俺はお前さえ、いてくれれば、ほかの何も必要ない…だから…」










き急ぐなかれ









私はそっと目を開け、ユウの手に自分の手を重ねた。








「…薬…」
…!起きて…!」
「薬、取ってよ」
「…あぁ」
「ユウが飲ませて」
は…?
「それ飲むと、体調最悪なの。だから一緒にいて」









神田はチッと短く舌打ちをした後、口に水と薬を含み、にキスをした。
薬が喉を通ったのを確認すると、自らユウに口づけをした。









「朝まででいいから…一緒に…」
「あぁ。いてやるから…だから…」









死ぬなんて、言うな





最後に、そう聞こえた気がした。










2016/10/02