※平子寄り原作沿い20を読んでから読むことをお勧めします。
は机に触れた。
その隣の席は、おそらく一護の席だろう。国語の教科書が無造作に置かれている。
指先から感じられる少しばかりの霊圧に、は顔を歪めた。
「、さん?」
「!」
背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返るとそこには、一護と共に尸魂界に来た井上織姫が包帯でぐるぐる巻きにされた格好で立っていた。
「井上…織姫?」
「あ、はい!
さんに名前覚えてもらえてるなんて、嬉しいな。あははー」
彼女が大怪我をした理由をは知っていた。
大怪我を負ったのに笑顔を振りまいている彼女の精神が、今のには理解できなかった。
「あ、そこ、ヒラコくんの席ですよ」
「…らしいな」
「ヒラコくんのこと、知ってるんですか?え、でも…」
「知らんよ、ヒラコという奴は」
「ですよね!転校してきたばかりなんです」
「そうか…もし、そのヒラコという奴が帰って来たら伝えてほしいことがある」
「?」
が学校を去ったほんの数分後、計算したかのように平子が帰ってきて、席に座った。
「!
なぁ、さっき、ここに誰か来たんか?」
「それなら井上さんが…」
井上の名前を聞いた瞬間、平子は猫なで声で井上を呼んだ。
「おっりひっめちゃーん!さっき、俺の席に誰かおったぁ?」
「え?あ、平子くん!
さんが…って言っても、平子くん、知らないもんね、さんのこと」
「…」
俺はホンマにアホや。
アホすぎて、笑えてくる。
「そのってやつ、どんな奴やった?」
「え?さん?
すっごい美人さん!スタイル良くて、長くて綺麗な黒髪を鈴の付いた簪(かんざし)で結ってるの」
「…そっか。めっちゃ美人か」
「うん!でもちょっと、元気なさそうだったなぁー。
こっちのご飯、合わないのかなぁー」
が触れたであろう机を俺も触れた。
懐かしい、優しい霊圧が指先から感じられた。
「あ!そのさんから平子くんに伝言があるの!」
「!!
なんて…なんて言っとったんや…?」
俺はその伝言を聞いたあと、の触れた机に座ってられる気分でもなく、そのまま帰ることにした。
帰り道、複数ある死神の霊圧のうち、のそれを、見つけた。
俺はあいつを守るって約束した。
それやのに、守るどころか、逆に傷つけてたと思うと、ホンマに力が抜ける。
何も守られへん、大切にできへん俺は、何しにここにおるんか、分からへんわ…
なぁ、…
こんな俺をまだ想ってくれてるんか?
こんな俺の入る隙間を、まだ置いてくれてるんか?
『誰かの名を覚え、顔を覚えるよりも…名を忘れ、顔を忘れるほうが難しい…』
大切
にしたいのに、
傷付ける
事しかできない
いつか…
また会える日が来るんやったら、
今度は絶対に…
2013/07/10