この世はとても生きづらい。
普通の人間ならとても生きやすいと思う。
警察が平和を守ってくれて、国家が味方だったら。

でも私はその二つが敵。

私は殺し屋。

私に味方なんていない。










さあ、










私はフリーの殺し屋として生きてきた。
どこかのマフィアのボスに殺しを依頼されて、報酬として金を貰う。
私の報酬はそんなに安くない。
一度の仕事で家が一つ買えるくらい。
でも、その代わり、絶対に成功する。
成功確率100%。
これだけは譲れない。
どんな殺し屋にも負けないわ。

そんな私が一人の男に恋をした。
彼は長身で、金髪で、かっこいい。
モデルみたい。
いっそのこと、モデルだったらよかったのに。
この世界に関係のない人だったら、私は手に入れられた。
でも、彼はこの世界でとても有名だった。

名前はディーノ。
彼はイタリアでも有名なキャバッローネ・ファミリーのボス。
どうしても彼が欲しかった。
だから、私は危険を承知で彼に近づいたの。







「ねぇ」
「…ん?」
「私のこと、知ってる?」
「…だろ。一流の殺し屋だ」
「どうも」
「俺を殺しに来たか?」
「ふふ…違うわ。私、貴方に惚れたの」
「…は?」
「私と付き合う気、ない?」








イタリアの高級ブティック街で私は彼に声をかけた。
彼はちょうど、スーツを新調しに来ていたらしい。
私はサングラスを取り、長い脚を彼に見せるように立った。
スタイルだけは自信がある。
そこら辺のモデルよりはスタイルはいいはずだ。

少しして、ディーノは鼻で笑った。
そして、彼は私の目を見て言った。








「俺もバカじゃねぇ。お前は俺を信じさせられるか?
 お前が俺を殺す気ないってこと」







私は無表情で彼を見上げた。
ディーノの身長が高いので、私は見上げないと彼を見ることができない。

私はスカートの裾から1丁の銃を出し、彼の車のボンネットに置いた。
それからシャツを上げて腰から銃、ヒールの底からナイフを、それぞれボンネットに置いた。
彼は目を丸くして私を見た。







「すげーな…」
「全身触ってもいいわよ。それで信じてもらえるなら」
「もういい、もういいって!







そう言って彼は私の肩を抱いた。






「ほんと、積極的なヒットマンだぜ」
「褒めてくれてありがと」
「で、どうしてほしいんだ?」
「別に。貴方の好きに」
「へぇ」








それから数か月、私はディーノの女だった。
一緒に住み、一緒に寝た。
彼は私に物足りなさを感じなかったし、
私も彼にそんな感情を抱かなかった。


でも


違った。
彼の全てが私のものになったわけではなかった。
彼の心の半分は部下に、その半分は市民に向いていた。
私は彼の全てが欲しかった。

それで私は気づいたの。
彼が生きている限り、彼の全てが私のモノになることは決してないことに。
全てが欲しかったら、私も全てを捨てないといけないことも。




だから私は決めたの。
彼の全てを手に入れるために…









「ねぇ、ディーノ」
「んー?」
「私のこと、好き?」
「あぁ」
「愛してる?」
「もちろん」
「言ってよ、ディーノも」
「愛してるよ、
「ほんと?」
「あぁ。だから、こうしてる」








そう言って彼は私を抱きしめてキスをしてくれた。

その夜、ディーノが寝た後、私はスッとベッドから起き上がった。
彼のぬくもりがまだ身体に残っている。
私は、すっと隠していた鉄の塊を持った。
静かに安全バーを降ろす。

そして、寝ている彼に馬乗りになった。








「ん……?」
「ねぇ、ディーノ。私のものになって…」
「ど…ゆう…」
「全部、貴方の全部が欲しいの」
「え…」
「だから、全部ちょうだい」








これで彼は全部私のもの。
顔も、身体も、気持ちも、この生暖かい血も全部。
全部私のもの。

そして私は、自分のこめかみに鉛の弾を撃ち込んだ。





全部、私のもの。
この時を待っていたの。
貴方が私のモノになるときを…







は満ちた









2012/10/29