25歳、冬。
    私はまた、独(ひと)り善(よ)がりな恋をした。











    GIRL TALK












    ちょうど、クリスマス休暇前のある日。
    私が勤める会社の同僚4人でクリスマス会をしよう、という話になった。
    同僚のビアンキからそんなことを聞いた、











    「もちろん、来るわよね?」
    「え?」
    「クリスマス会よ。ディーノも来るって」
    「あぁ…じゃあ行こうかな」










    ディーノ、私の同僚で片思いの人。
    何度かデートもしてる。
    普通に一緒にご飯に行ったり、買い物に行ったり。
    私から誘ったりもした。
    この前の買い物デートのときなんて…







    が同僚じゃなかったらなぁ
    『え?』
    『…』
    『私も、ディーノが同僚じゃなかったら、な…』
    『…ま、に男として見られててよかったよ








    そんな会話をした直後のクリスマス会。
    ビアンキにはないけど、色々期待をしていた。
    二人きりになる場面なんてないと思うけど、もしかしたら…なんて思ってた。

    メンバーは、私、ビアンキ、ディーノ、スクアーロ。
    その4人でポーカーをしていた。









    「…ディーノ負けね」
    はぁ!?ビアンキ、お前ズルしてねぇか!?」
    「私、ポーカーは得意なの」









    罰ゲームは雪の振る中、ワインを買いに行くという苦行。
    勿論、徒歩だ。

    あと一人。

    罰ゲームに行くのは、二人だとゲームを始める前に決めていた。
    そして私は、わざと、負けてみせた。








    「…あ。ちょ、ミス…」
    「ダメ。の負け。二人で行ってきなさい」
    「えぇー!寒いじゃん!」








    といいつつも、内心、良かったと思った。
    だって、ビアンキとディーノが二人で行くなんて、嫌だから。

    私とディーノは吐く息を白くしながら徒歩15分ほどかかるリカーショップへと向かった。









    「寒いなぁ…!」
    「ね。負けたの、ミスったなぁー」
    「まじ、俺、ポーカーとか苦手なんだよな」
    「私は一瞬ミスっただけだから!」
    「なんだよ、それ」
    「…ほんと、手が冷たすぎて、やばい…」
    「…どれ?」








    そういってディーノは私の手を握ってきた。
    それは所謂『恋人つなぎ』で
    私は心臓が飛び出るかと思った。

















    そして私たちは言いつけられたワインを買うまで一言も話さなかった。
    それでも手は繋がれたままで。
    もう少しで、家に着くというところでやっとディーノが口を開いた。








    「手、温まった?」
    「うーん…ぼちぼち、かな」
    「はっ…なんだよ、それ」
    「自分のポケットのほうが温かい…」









    そういって私はディーノの手を放そうとした、その時。
    よりギュッと握られ、ふいに腰を引き寄せられた。

    いつの間にか触れ合っていた唇に、私は目を見開いた。








    ん!?ちょ…」
    …うるさい…








    そういって抱きしめられた。
    ディーノの心臓はドキドキして、このまま爆発するのではないか、と心配するくらいだった。








    「ディーノ…心臓、ドキドキだよ?」
    「…慣れてねぇんだよ」
    「ふふ!」









    この時が一番幸せだった。








    ※    ※    ※









    翌日、ディーノから連絡が来ることはなかった。
    その翌日も、その翌々日も。
    結局、新年を迎えるまで連絡がくることはなかった。

    新年早々、ニューイヤーの花火を見に行こうと言っていた。
    メンバーは前と一緒で。
    私、ディーノ、ビアンキ、スクアーロ。
    その時も、ディーノは私と話すことはなく、ずっとスクアーロとばかり話している。
    クリスマスのことなんか、覚えてないみたいに。









    「…ディーノと二人にしてあげるわよ」
    「ビアンキ?」
    「何があったか知らないけど、ちゃんと話しておいで」
    「…うん」









    ビアンキの計らいで、またディーノと二人で、買い出しに行くことになった私たち。
    この前みたいに手を繋ぐことは、なかった。
    あの時と同じように凍えるように寒いのに。
    私の手はコートのポケットから出ることもなく、ディーノに「寒くないか?」なんて心配されることもなく。
    ビアンキたちの元へ着きそうになたとき、私は口を開いた。









    「ねぇ、ディーノ」
    「ん?」
    「前のって、
    「…前の?」
    「クリスマスの…」
    「…あ、あぁ…あれか…」
    「本気じゃなかったってことで、いいよね…?
    「まぁ…そうだな…うん…
    「…えーと…じゃあ、雰囲気?」
    「…まぁ、雰囲気…かな…クリスマス…だし」
    …そか!!そうだよね、やっぱり!」
    「…」
    「最後に聞いていい?」
    「なに?」
    「なんで…キス、したの?嫌いな人とは…しないよね」
    「そりゃ、いいな、と思ったからで…あと、止められないんだよ」
    「え?」
    「スイッチ入っちゃうとさ、止められないんだ。
     別に最後までヤりたいとか思ってたわけじゃないんだ。そこはわきまえてる」
    「…うん、あの、私はさ」
    「え?」
    「好きかも、くらいではキスしないよ…好きだから…キスしたんだよ
    「…そうだよな。俺が悪かったよ









    それだけ言ってスクアーロの元へ駆けるディーノ。
    私の中で、何かが崩れた。

    それでも、涙は出なかった。
    きっと、クリスマスから今日までの間で、自分の中ではあれは雰囲気だったんだろう、と分かっていたのかもしれない。
    一つのモヤモヤは消えたのに。
    何故、まだモヤモヤするんだろう。
    なんで悲しいのに、涙が出ないんだろう。


    動かない私の前に、ビアンキがやってきた。









    …」
    「…ん?」
    「どうする?帰る?」
    「ううん…大丈夫」
    「…、強くなったね」
    「…うん…」
    「…」
    「なんかさ、バカだよね、私…
     最近、ディーノとデート行ってさ、ディーノの言動だけでこれは両思いだ、なんて。
     手握られて、キスして…そんなの誰でも、両想いだって、思っちゃうじゃん…
    …」
    女の涙はさ、ズルいと思うから泣かないよ。というか、涙、出ないし。
     でも、バカ過ぎてさ、笑えてくるよね…ダメって答え出てるのに、好き、とか言っちゃったし…」
    はバカじゃない
    「…ありがと、ビアンキ…」
    「女子会、するか」
    「…うん…その時までに…泣けたらいいなぁ







    2017/01/21