いつもいつも、素直になれない自分に嫌気がさしていた。








あの日から私はローマ郊外の小さな街に移り住んでいた。
あのバーにはもう行けないし、ここが私の故郷だから。
手紙の住所もこの街。
でももうあの日から数ヵ月が経とうとしていた。

あの場所に置いた手紙はきっと、風で飛んでいってしまったのだろう。
それでも仕方がないと思った。
あんなことしか出来ない私。
あーすることしか人に思いを伝えられない私自身に、嫌気がさして毎日ため息をついていた。







はぁ〜
ちゃん、またため息かい?」
「ジョシュアおじさん…」
「ため息を付くと幸せが逃げるぞ」
「はは!大丈夫よ。」
「せっかくここに戻って来たんだし、骨も埋めろよ」
「またその話〜?」
「2件先のロッソなんて、顔もいいし性格も抜群じゃないか」
「私には勿体無いわ」







ジョシュアおじさんは私のお隣に住んでる世話焼きのおじさん。
私に見合い話を何件も持ってきては、こうやって私にお見合い話を何件も回避されている。
私のことを何も知らない男と一緒になるなんて、相手が可哀想過ぎる。
かと言ってディーノさんが私なんかを相手にしてくれるわけもないし、現に…










「はぁ〜」










するとふと、風に乗ってある花の匂いがした。
街を少し離れ、丘に上ると、そこにはリナリアの花がたくさん咲いていた。

リナリアは西地中海を中心に咲く一年草。
こんなところに咲くはずないのに…











「リナリアの花言葉は…幻想…










そっか。
今までのことは幻想だって、私に言い聞かせたいのね…
幻想だから、今までのことは忘れて、現実に戻れって、言いたいのね。

ちょうど頃合かもしれない。
こんな私に夢を見せてくれたんですもの。

私は、リナリアの花を一輪、積むと、そのまま街に持ち帰った。

街に戻ると何やら騒々しかった。
私は急いで街の中心に行くと、ジョシュアおじさんに話を聞いた。











「なに?この騒ぎ…」
「ローマからどエライ金持ちがやってきたんだってよ!」
「へ?」
「黒塗の高級車が何台もさー!この街になんの用があるんだか…」
「へぇ〜」
「ワインか?でもそんな有名なワインねぇしなぁ」










ブツブツ言いながら帰るジョシュアおじさん。
私も、それに続いて帰ろうとしていると、急にザワザワしだした。
立ち止まって後ろを向くと、彼がいた。

私は目を見開き、何度も瞬きをした。
それでも彼は視界から消えないし、むしろこちらに寄って来ているようあった。
持ってたリナリアの花は地面に落ち、花を散らせた。










「やっと、見つけたぜ。…」
「え…ぁ…
「あの日、公園でずっと待ってたんだぜ?俺…
 あんなに待ちぼうけくらったの初めてだった」
「…あの…」
「結局こねーしさ、折角買った花も勿体ねーことしちまった」
「…」
「で、俺も諦めたわけ。男癖の悪ぃ貢がせ屋なんて俺の名前に傷が付くしな。
 でもさ、俺、諦め悪いから。
…え…
「探したわけ。そこらじゅうファミリーを総動員させてな。
 大変だったぜ?警察には追っかけられるわ、変なファミリーに目ぇ付けられるわ。
 で、見つけたわけ、これ











バッと私の目の前に出されたのはとても汚い一枚の紙切れ。
それでも字を解読するには充分だった。









「それ…私の…」
「こんなメモ、書くくらいだったら待ってろよ。
 それかメモの上に石置くとか!
 そーしてくれたら俺もこんなに…って何で泣いてんだ!?」
「ごめ…ごめんなさ…っく…
 私、後悔…して…なんで、素直に…なれなかったんだろうって…
 今まで、いっぱい男の人騙して…でも、ディーノさんだけは…違うって…
 ごめんなさ…い…」











私が泣いていると、ふと下に落ちた花を拾って目の前に差し出してくれた。










「リナリオ…俺の地元にもいっぱい咲いてるぜ」
「…」
「花言葉は…幻想…俺との出会いも幻想にしようってか」
っ…!
「でもな、もう一個、あるんだぜ」
「へ?」
『私の恋を知ってください』
「あ…」
「あの日、俺はダリアの花束を持って言ったんだ。
 優美って意味で買ったのに、とんだ裏切りにあっちまった。
 でも今回は…」
「今回は!私から…私からプレゼントさせてください!!」
「…へ?」
「私の恋…ディーノさんに知ってもらいたいんです…!
 もう幻想なんて思いません!
 貴方の名前に傷も付けません!だから…だから…」










ギュッと暖かい温もり一緒に、リナリアの優しい香りが鼻を掠めた。








「一緒にくるよな、
…はい!













リナリアの香る街で






「いやー、あんなちゃんにあんな金持ちでカッコイイ友達がいるなんてなぁー」
「ジョシュアさん、あれ、の彼氏ですかね?」
「諦めろ、ロッソ。お前には高嶺の花だったってこった」
紹介したのはジョシュアさんでしょ!!?
「ま、こーゆう時もあるさ」
「ふんふんふーん♪」
「あー!また聞こえないフリした!!







2015/02/21