このバレンタインデー戦争を勝たずして、彼の心なぞ手には入れられぬ!!
私はデパートに来ていた。
2月14日のバレンタインデーのために、デパートでは特設会場を作り、
様々なブランドを出店させ、チョコレートの消費を促している。
会場は女性でごった返し、通路を通ることもままならない。
「ここは…戦場だ…ッ!」
私は心の中で叫んだ。
私が目指しているブランドが出店しているのは一番奥。
特設会場の入口からは直線距離で約500m。
その間、様々な有名ブランドが軒を連ねていた。
「う…すごいおばちゃんの数…!
これは何分かかるのか…」
「お客様ー!チョコレートの試食はいかがでしょうかー??」
私の好きなブランドが試食を始めていた。
チョコレートが食べたい
そう思いながらも、今は目的に向かって突き進んでいた。
入口から歩き始めて約5分。
ようやく目的の店、「オーバーワイズ」に到着した。
「すいません!この6個入の…」
「申し訳ございません。たった今、売り切れてしまいまして…」
「…へ?」
「こちらの3個入のものでしたらまだ在庫がございますが…」
「…でもその中にはウィスキーボンボンが入ってないんですよね?」
「そうですねぇ。それは6個入のセット限定の味でしたから」
「…そう、ですよね」
オーバーワイズのウィスキーボンボンは今年の新作だった。
私の気になる「彼」もそれが食べてみたいと言っていた。のを聞いた。
だから買いに来たのに…
私は肩を落としてその場を立ち去った。
仕方がなく、私が好きなブランドのウィスキーボンボンが入ったチョコレートを購入した。
「戦争に…負けた…」
※ ※ ※
バレンタインデー当日。
私はうつむきながら学校に向かった。
教室では女子が「彼」にチョコレートを渡そうと人だかりができていた。
ほとんどがあの「オーバーワイズ」の紙袋を持っていた。
私が持つ紙袋はオーバーワイズのチョコレートよりも断然安く、庶民的なブランドだった。
「なーんだ、私だけか。負けたの」
私は、その紙袋をバッグの中にぐちゃぐちゃにしまいこんで教室に入った。
私の席は「彼」の前。
邪魔な女子を言葉で蹴散らし、ドカッと座った。
チャイムが鳴り、全員が席に着くと、後ろから「彼」が声をかけてきた。
「おはよ、!」
「おはよ、ディーノ」
「なぁ、見ろよ!オレの食いたかったウィスキーボンボンがいっぱいあんの!」
「…あっそ」
「も一つ…」
「もううっさいなぁ。先生来たよ!」
「お、おぅ…」
その日一日、ディーノとはまともに口を利かなかった。
というより、利けなかった。
ディーノの元には他のクラスや学年からもひっきりなし女子がチョコレートを私に来る。
だから私は話す機会がなかったのだ。
放課後。
帰る支度をしていると、ディーノから声をかけてきた。
「なぁ、。一緒に帰ろうぜ」
「…そんなにチョコ持って、どうやって帰んのよ、バカ」
「チョコはトラックで持って帰ってもらったんだ。今日はお前と…」
「もう!触んないで!」
「…?」
「じゃあね!!」
私はディーノの静止を振り切った際、バッグの中からぐしゃぐしゃになったチョコレートの紙袋が床に落ちた。
「…?」
「わ!な、何にもない!」
「ちょっと待てって!」
私が紙袋を拾う前にディーノがひったくってしまった。
「これ、チョコ?」
「あんたのじゃないって。」
「じゃあ誰にあげるんだ?」
「…あげるの止めたの。」
「こんなぐしゃぐしゃ…」
「紙袋がぐしゃぐしゃなのは落としたから!もうほっといて…」
「じゃあオレがもらってもいいんだよな!」
「あ、ちょ…!勝手に…!!」
ディーノは私に届かないように箱を上に持ち上げると、
その中からチョコレートを一粒取り出し、口の中に入れた。
「うまっ!これ、美味いなぁ!」
「…それ、安いやつだよ」
「いーじゃん、別に」
「でもディーノ、『オーバーワイズ』のウィスキーボンボン食べたいって言ってたじゃん」
「あー。聞いてたのか?あんなの、ハッタリだよ」
「…は?」
「あんなたっかいチョコ、学生が買えるわけねーと思ってたんだ。お前以外」
「…え?」
「それなのにさー、普通に買ってくんだもんなぁー。どこに金があったのか…」
「…」
「お前は何?チョコレート戦争にでも負けたのか?
どーせギリギリに買いに行ったんだろー?」
そう言いながら、チョコレートを一粒、口の中に放り込まれた。
私の好きなウィスキーボンボンだ。
「お前も好きなんだろ?ウィスキーボンボン」
「…」
「チョコなんてさ、ブランドとか関係ねーんだよなぁー。
買ったやつでも、作ったやつでも。
オレはお前から貰えるチョコだったらなんでもいい」
私は目を見開いてディーノを見た。
そんな彼は私のバッグを持って教室のドアまで歩いて行った。
「ほら、帰っぞ」
「あ、うん」
「今日さ、オレの城来いよ。チョコ食い大会しよーぜ」
「はは!何それ」
「あのトラックいっぱいの山、一人で食ったら太る」
「そんなこと言って、私を太らそうとしてるんでしょー!!」
「んなことねーよ」
「じゃあ、あのウィスキーボンボンだけ食べてあげる」
「はぁ!?あれはオレのだって!」
帰り道、ディーノはさりげなく私の手を握ってくれた。
ウィスキーボンボン
ディーノの部屋にて。
私はクッションを抱きしめてベッドに転がっていた。
「なぁ」
「んー?」
「オレがオーバーワイズのウィスキーボンボン食べたいって言った理由分かるか?」
「…分かんない」
「お前に食べさせたかったんだよ」
「え?」
そう言ってオーバーワイズのウィスキーボンボンを口に入れられた。
「美味いだろう?」
「…うん」
私はそのままディーノに軽くチュッとキスをした。
ディーノの耳はすぐに真っ赤になり、私は笑った。
「御裾分け」
「///」
2014/02/14