4年後、私は18歳になっていた。
屋上物語
-始まりの終わり-
私はあの屋上に来ていた。
3年前に中退したセント・バーレーン学院の屋上に来ていた。
あの日も、太陽がかんかん照りだったっけ。
でもあのときは暑かった。
今は、ちょっと寒い。
冬が始まろうとしていた。
私はコートを着て、ストールを巻いていた。
あのときは制服だった。
黒い革靴を履いていた。
今は、黒革のブーツを履いていた。
ピンヒールのブーツを履いていた。
ギィッ
扉が開く音がした。
そこに現れたのは男だった。
身長も180cmは超えているだろうか。
ブロンドの髪を無造作に流している。
彼はダボっとしたジーンズを履いていた。
彼もコートを着ていた。
「いでっ!?」
そして、ちょっとの段差でコケた。
「あはは!変わんないねー」
「う……」
「久しぶり。ディーノ」
私は彼に手を差し出した。
立ち上がった彼は、4年前よりも身長が伸びていた。
身体もガッチリして、大人の身体になっていた。
「さっきの嘘。やっぱ、変わったね」
「お前も、綺麗になった」
「なっ/// いきなり…何よ…」
私の髪を優しく撫でながら言った。
そんなディーノの顔を私は恥ずかしくてまともに見れず、
そのまま屋上のフェンスまで歩いて行った。
「この4年、何してたの?」
「ん?そりゃ…リボーンの修行だよ。キツかった」
「あは!リボーン、スパルタだもんね」
「お前は?」
「んー?色んな国行ったよ。語学研修も兼ねて」
「へぇ」
「50ヵ国語は話せるようになった」
「すっげ。マジ?」
「うん。これもあんたに対抗するため」
「お前、そんなに負けず嫌いだったっけ?」
「多分ねー」
いつの間にか隣にいたディーノ。
でもやっぱり顔を見ることは出来なかった。
すると、急に後ろから抱きしめられた。
そんな彼を私は拒むことはできなかった。
「俺にしろよ、…」
「…」
「4年前はスクアーロに先越されたけど…
今の俺は昔とは違う。お前のためなら…」
「うん」
「…え?」
「この4年間、ずーっと考えてたんだ。
なんであの時、スクが良かったんだろうって。
ほんとはディーノのほうが好きだって自分でもわかってたのに。
でね、見つけたの、答え。」
「…」
「私、ディーノに追いかけてきて欲しかったんだって。
あのときのディーノ、すぐに引いちゃって、自分のこと下にしか見てなかった。
ホントは誰よりも勇気があって、強くて、優しいのに。」
私はディーノの腕をギュッと掴んだ。
とっても暖かかった。
「好きよ、ディーノ。ずっと前から。」
「あぁ…俺も」
そして私たちは4年ぶりのキスをした。
これは私の思い違いかもしれないが、4年前より、上手くなっているような気がした。
屋上からの帰り道、そのことをディーノに聞いてみた。
「キス、上手になったんじゃない?」
「そーか?」
「私以外の女とヤったんでしょ?」
「してねーよ、馬鹿」
「そ?じゃあ私が初めて?」
「お、お前はどーなんだよ!」
「さぁ?」
「さぁってなんだよ!」
「あはは!」
「あ!まさか…スクアーロ…!!」
「スクは違うわよ。キスまで」
「キスまでって!!おまっ…!」
「約束はしてたけどね。」
「どんな?」
「4年後も好き同士なら、キスの続きやろうって」
「はぁ!!??」
「でも好き同士じゃないから、やってないわよ。ってか、会ってないし」
「…」
ディーノの必死の顔が面白くて私は笑った。
でもあの『揺りかご』以来会っていないのは事実だ。
噂では様々な剣の流派を潰しているとは聞いている。
まぁ、元気にやってそうだ。
「ね、あそこのジェラート屋さん、行こうよ」
「寒くねーのか?」
「うん。大丈夫」
そう言って私は行きつけの、まぁ、4年前までだけど、ジェラート家さんに顔を出した。
「おじさん、元気?」
「ん?おぉ!じゃねーか!綺麗になったなぁ!」
「ありがと!おじさんこそ、ダンディになったねぇ」
「このちょび髭がな、自慢なんだよ」
「あはは!久しぶりにおじさんのリモーネが食べたくなって」
「そーかそーか。一人か?」
「ううん。ディーノと一緒」
「スクアーロはどうした?」
「分かんない。あいつ、我が道を行くって感じでしょ?」
「…いーじゃねーか。俺はずっとお前はディーノとくっつくと思ってたぞ!」
「それ、4年前も言ってたよ。」
「よく覚えてんなー!ほれ、ひとつ大きなカップに入れてやったよ。スプーン、2つ」
「グラツィエ!また来るね」
「次は3人でおいで」
「……うん!」
おじさんのリモーネはいつでも爽やかだ。
今回も変わらず爽やかで、心地よかった。
ここまでは4年前と一緒だった。
でも、今は隣がディーノで、彼はスクとは違った。
「それ、何味?」
「リモーネ」
「一口くれよ」
「スプーンあるじゃん」
「こっち」
そう言ってディーノは私のスプーンからリモーネを食べた。
「あー!私の!」
「うまっ!けど、寒いな…早く行こうぜ」
「もう…え?どこに行くの?」
「車。乗ってきたんだよ」
「運転できんの?」
「まぁな」
「うっそぉ」
「ま、見とけって」
そう言って赤のフェラーリが止めてある場所までやってきた。
車体にもたれながら寒そうに待つ男が一人、見えた。
「よぉ、ボス。用事は済んだか?」
「あ、ロマーリオ」
「お!これはさん、綺麗になって!」
「なんでロマーリオがいんの?」
「ボスのお供だよ。ボス、俺らの誰かが隣にいねーとすぐに事故っちまう」
「ロマーリオ、うっせぇよ」
「…まじ?」
「いや…お前の前では運転できるようになるから!」
「私、運転しようか?」
「いや!お前乗せて走るって決めてきたから!」
「おぉー、言うねぇ、ボス!」
「うっせぇって!ロマーリオ後ろな!」
「へいへい」
ディーノはまだまだへなちょこで馬鹿だけど、優しくて頼れる男になっていた。
私はスパイで、ディーノは巨大ファミリーのボスで、これから色々あると思う。
でもディーノといれば、きっと守ってくれる。
そんな感じがしたの。
4年前のあの屋上で、あんな喧嘩しなければ、
もっと早くに気付いていたのかもしれない。
でも、あの出来事があったからこそ、
私は自分の道を見つけることができたし、ディーノがいる嬉しさをより実感できているのかもしれない。
屋上から始まった物語はこれで多分終わるけど、
始まりが終わっただけで、これからが本番だ。
完。
2013/10/17