12月24日。
その年のクリスマスも普段どうりだった。
途中まで…










屋上物語 -揺りかご-











「ねぇ、ガナッシュ!これ、飲んでい?」
「ダメだっつの!お前、まだ14だろーが!」
「今日くらいいいじゃーん!」
「あと4年早ぇーよ。これは大人の飲みもんだ。お前のはこれ」









そう言ってワイングラスに炭酸水を注ぎ込まれる。
頬を膨らませてもガナッシュは私のグラスにはワインを注いではくれなかった。
クリスマス・イブのパーティ。
ボンゴレの城では毎年、盛大にキリストの誕生を祝っていた。
招待した中にはスクアーロもディーノも招待されているはずだが、会場で見つけることはできなかった。









「これはこれは…様!ご立派になられて!」
「…えっと…?」
「申し遅れました。私、オッタビオと申します
「こんばんわ、オッタビオ。ごめんなさい、お顔、覚えてなくて」
「いえいえ。以前お会いしたのは貴女がまだお小さかったですから…それにしても…」
「?」
ポーカーフェイスの上手いお方だ










それを聞いた瞬間、の顔から笑みが消えた。
薄気味悪い笑顔を浮かべながら人ごみの中に消えて行くオッタビオを
はじっと見つめていた。









「どした?姫…」
「別に…」









オッタビオ…あのヴァリアーの副隊長を努める男だ。
ヴァリアーにいい印象を持っていないにとって、彼も例外ではなかった。
紳士的な顔付きの裏に何が隠れているか分からない。
それが、ヴァリアーだからだ。

しかし、暗殺部隊の隊員が表舞台に出てくるとは予想していなかった。
は悪い予感を感じながらも、マフィアの幹部への挨拶を続けていた。








※ ※ ※ ※








パーティがお開きになった23時。
ボンゴレの城から高級車がドンドンと減っていく。
は一足先に自室に戻っていた。

着ていたドレスを脱ごうとしたが、
その前に携帯の着信に気付いた。

着信は2つあった。
ひとつはディーノ。もう一つはスクアーロだった。








 今日、俺も来てたんだけど、会えなかった。
 なんせ、会場が広すぎてさ。
 でもお前の近くまで行ったんだぜ?
 お前、いろんな人に挨拶に忙しそうだったから。
 でもドレス姿、綺麗だったよ。    ディーノ』







「こんなメール送るんだったら、声かけてくれたらいいのに」と
心の中で思いながらも、私は笑みがこぼれていた。
その返信に夢中で、スクアーロのメールを見るのを忘れていた。

もし忘れてなかったら、あんなことにならなかったのかもしれない。





24時の鐘が鳴った。
その瞬間、近くで銃声が木霊した。
何十発と聞こえる銃声に、私は部屋から飛び出した。
さっきまで静まり返っていた廊下が随分と騒々しい。
動きにくいドレスの裾を持って玄関の方へ走った。









姫ッ!!姫ッ!!?








廊下の途中で私を呼ぶガナッシュに出会った。
彼は走って私の部屋に向かって来ていたようだ。








ガナッシュ!何があったの?!
「早く!逃げるぞ!!
「え!?」
クーデタだ!!








私もクーデタの意味は分かった。
誰かがボンゴレを裏切ったのだ。
ガナッシュに手を引かれ、秘密の裏口に走った。
もし、城内で何かが起こった場合、私はそこから逃げるように教えられていた。
ガナッシュの右手には銃、左手では私の手を握っていた。
廊下の曲がり角に差し掛かるたびにガナッシュは誰かを撃った。









「こいつ…ヴァリアーだ…
「ぇ…どういう…」
「姫!行くぞ!!」
「う、うん…」







撃たれた男の顔を見て言うガナッシュ。
その口から「ヴァリアー」という言葉が出るとは思っていなかった。
秘密の裏口までの最後の角を曲がった瞬間、ガナッシュは私を自分の影に隠し、銃を構えた。
しかし、銃声がすぐには聞こえなかった。








「ガナッシュ…?」

「貴様…なんで…」
「ちっ!撃てよぉ!
「(この声…)」









私はガナッシュの腕を振り切って前に出た。









スク…?
「…」
「スク!何してるの!?早く、逃げないと!
「姫…こいつは…」
ガナッシュ!早く、スクも一緒に…!
「姫、分かってんだろ。こいつらが起こしたんだ」











私は掴んでいたスクアーロのシャツから手を離した。
その手が震えていることが自分でも分かった。









「な、んで…」
9代目を殺すためだぁ…
「ぇ…」
ザンザスはボスにはなれねぇんだよ!
「…どういう…?」
姫、行くぞ!!
「ちょ、ガナッシュ!!離して!
「お前の処罰は後だ!姫!早くしねーと、城が崩れる!」









私たちが逃げている間にも銃撃戦は激しさを増し、
どこかで火事も起こっているようだった。
廊下に座り込むスクアーロを残して、私は逃げた。

裏口を抜けたとき、城は真っ赤になっていた。
それを見た私は、とっさに城の中に戻ろうとした。








9代目…9代目…ッ!!!
「姫、ダメだ!!
「でも!!9代目が…っ!!








すると、茂みの中から何故かディーノと部下のロマーリオが出てきた。








「ちょうどいいところに…キャバッローネのガキ、姫を離すな!」
え!?








ガナッシュは私をディーノに押し付けると、自分が城の中に戻ろうとした。







「ガナッシュさん、これは…」
「キャバッローネの…すまない、こんなことに巻き込んじまって…」
「困ったときはお互い様だぜ、なぁ?ボス?」
「あ、あぁ…」
ディーノ!離して!!9代目が…!!
、落ち着け!!
やだ!!離して!!







しかし、ディーノは私を抱きしめ、離してはくれなかった。
ガナッシュは崩れかけた城内に戻っていく。
火薬の匂い、色々なものが焼ける匂いが鼻を付き、
私はディーノの胸で泣き続けた。
何が悲しくてこんなに涙が出てくるのか自分でも分からなかった。

信じていた自分のファミリーが起こしたクーデタだからか、
それとも9代目が狙われているからか、
それとも…
スクアーロが加害者集団の仲間だったからか。




分からなかった。



















2013/10/15