9月…
風も随分と秋めいたが、日差しはまだまだキツかった。
屋上物語
-馬鹿-
私が教室に入るとザワザワとし始めた。
そして、すぐに静かになった。
前みたいに「様、おはようございます!」なんて言ってくるヤツは、いなかった。
私はため息を付いて、自分の椅子に座った。
何もなく、静かに一日が始まった。
こんな一日、初めてだった。
いつも、ディーノが遅れて教室に入ってきて、担任に怒られて。
休み時間にはスクアーロが大声出してやってきて、ディーノをおちょくって。
私はその二人を見て笑って。
あれ?スクアーロは…?
私はバンッと椅子を後ろにやると、隣のクラスに駆け込んだ。
「…?今は授業中だぞ」
「あ、あの…スクアーロは?」
「スクアーロ?今学期から転校したぞ」
「…え?」
「聞いてないのか?お前ら、仲良かったろ」
急いで自分の教室に戻ると荷物をまとめて外に出た。
担任はキョトンとしたまま、私に声をかける暇もなかったようだ。
私は携帯電話を出すと、すぐさま電話をした。
『よぉ、姫。久々の学校はどうだ?』
「ガナッシュ。すぐに迎えに来て」
『ん?まだ始まったばっかだろ』
「お願い」
『…あぁ。待ってろ。すぐ行く』
※ ※ ※ ※
「なぁ、姫。どこ行くんだ?」
「…自分勝手なヤツばっかだから、一発入れに行くの」
「…は?」
車を走らせ、アペニン山脈麓の小さな街に着いた。
とある建物の真ん前で車を止めて貰い、私は外に出た。
ガナッシュには車から出なくていいと言ってあった。
私は大きく息を吸い、扉を押した。
ギィイという軋む音とともに開いた扉。
ロビーは薄暗く、は周りを見回した。
歴史的な建物なのだろうか、壁にはヒビが入っていた。
「へぇ。客かよ、珍しい」
階段の上から顔を覗かせるのは、でっぷりと太った大柄の少年だった。
年はと同じくらいだろうか。
しかし、の整った顔とは正反対のニキビだらけの顔で、
つり上がった目は上から下までを見定めていた。
「…その制服、セント・バーレーンのだ。超金持ち学校」
「だから?」
「俺はズッコ。一応、この寮を仕切ってる。」
「へぇ。私、人を探してるの」
「まずは俺の許可を取らねーとなぁ。お嬢様」
ズッコと名乗った少年は取り巻きと共に階段をずんずんと降りてくる。
ニタァっと笑いながらに近付いてくるが、当の本人は一歩の引き下がらない。
体重はズッコのほうが断然重いが、身長は何故かの方が高かった。
「で?誰を探してんだ?」
「スクアーロ」
「…は?」
「スペルビ・スクアーロ。知ってる?」
「あ、あああいつの知り合いか…?」
「悪い?」
彼の名前を聞いた途端、ズッコの顔は青白くなり、額には脂汗が浮いて来ていた。
「きったない顔…」と内心思いながらもは彼を見下しながら返答を待った。
しかし、彼は一言も発しないままに尻餅を付いた。
取り巻きたちもいつの間にか階段の上へと避難している。
よっぽどひどい目に合わされたのかと思い、溜息を付くと、後ろからふと気配がした。
「ひぃっ!ス、スクアーロ…!」
ズッコは尻餅を付きながらもの後ろを指差しながら叫んだ。
もその指差す方向を向いた。
そこには以前よりも格段に眼付きが悪くなったスクアーロが立っていた。
「スク…」
「?何やってんだ、こんなと…」
バッチーン
スクアーロが話している途中で、はスクアーロに思いっきり平手打ちを食らわした。
ズッコたちも驚いただろうが、一番驚いたのはきっとスクアーロで。
彼のこめかみにはドンドンと血管が浮き出ていった。
「ヴぉぉおおおい、!!何すんだぁ!?」
「それはこっちのセリフよ、バカ!!」
「あ”ぁ!?」
「あんたね、なんでも勝手に決めちゃって、勝手に私の前からいなくなって。
こんなことになるなら、最初っからあんたの告白、受けなきゃよかった!!」
「…おい、…」
私は背伸びをしながらスクアーロの胸ぐらを掴んだ。
彼は、この夏で数十センチほど、背が伸びていた。
もう彼を見るには見上げないといけなかった。
「この気持ち、どうすればいいのよ…ばか…」
2013/10/13