バタンと閉まった扉は、私とスクアーロの間に壁を作ったようだった。
カツカツと杖を付きながら9代目が階段を下りていき、そして私の肩に手を置いた。
「9…代目…」
「すまんな…お前さんにはまだ話してなかった」
「私にお兄ちゃん…いるの?」
「…あぁ。ザンザスは私の息子であり、お前の兄だ。」
屋上物語
-別れ-
どんどん目の前が暗くなっていくのを感じた。
兄がいるってことは、きっと嬉しいはずなのに、そうは思わなかった。
握っている紙袋がグシャッと崩れる音がした。
「…じゃ、じゃあ…あの集団は…?」
「あれは…ボンゴレ・ファミリー最強の暗殺部隊、ヴァリアーだ。
今回、ザンザスがヴァリアーの隊長に就任した」
「ス、スク…!なんで、スクアーロが…」
「彼もヴァリアーの隊員だよ」
「ぇ…」
私はその瞬間走っていた。
玄関の扉を開けて、目の前に止まっている車に駆け寄った。
フロントに靡く黒い旗の紋章は見たことがない。
最後の一台に乗り込もうとする彼を呼び止めた。
「スク…ッ!!待って!」
スクアーロは車には乗り込まず、ドアを閉めた。
車はスクアーロを置いて先に走っていった。
「ねぇ、嘘でしょ…?ヴァリアーに入ったなんて…」
「嘘じゃねぇ」
「…忙しいって…これのこと?」
「そうだ」
「…」
彼とは目が合わせられなくて、下を向いた。
その時、彼の左腕がおかしいことに気付いた。
この前会ったときは包帯なんてしてなかった。
私は恐る恐る彼の左手を握った。
「…ど…したの、これ…」
「剣帝を理解するためだ…」
「理解って…何考えてんの!?頭、おかしくなったんじゃない!?」
「…」
「腕無くして、何を理解するっていうの!?」
「おい…」
「ヴァリアーなんかに入って…人殺すんだよ!?分かってる!?」
「!!!」
「ッ!」
彼の怒鳴り声でやっと私は我に返った。
私は彼の左腕を離した。まだ、包帯の感触が残っている。
涙が頬を伝い、彼の目を見た。
一瞬、私の知ってる彼の目を見たが、また知らない目に戻った。
スクアーロは私に触れようと手を伸ばしたが、私はその手を払い除けた。
「さ、触んないで…」
「…」
「今のあんたに…触れられたく…ない…」
「…じゃーな」
スクアーロは後から来た車に乗り込んだ。
黒光りする車は大きなボンゴレの門を潜って外に出た。
一人残された私は、頭がぐちゃぐちゃで、泣くしかなかった。
※ ※ ※ ※
「…姫…」
何時間経っただろうか。
私はずっと、玄関前の広いロータリーの所でうずくまって泣いていた。
日が沈みかけた頃、誰かが私に声をかけた。
「…」
「9代目が心配してるぜ。中に入ろう」
「ガナッシュ…私だけよ」
「…何が?」
「ディーノもどっか行っちゃうし、スクもヴァリアーに入っちゃうし…
実はお兄ちゃんがいるだなんて…全部、全部知らないの、私だけよ」
「なぁ姫…俺はさ、泣いてる姫なんて見たくねーぜ?」
「え…?」
「キャバッローネのガキも、スクアーロのガキもお前を泣かせる為に言わなかったわけじゃねーよ」
ガナッシュは私は立ち上がらせ、涙を拭ってくれた。
「さ、メシだメシ!今日は姫の好きなラザニアだってよ!」
「うん」
「ほら、元気出せよ!明日、俺がどっか連れてってやるから。な?」
「どこ?」
「どこってそりゃ…ローマ辺りをだな…」
「近いじゃん!」
「俺も忙しーの!」
「ガナッシュのケチ!」
「ケチで結構!」
ガナッシュは何も言わず私の紙袋を持ってくれた。
きっと中身も何か分かったはずなのに、何も言っては来なかった。
ガナッシュは9代目の守護者の中で一番若くて、一番陽気。
私の世話役も兼任してくれてる。
私の行動に注意はするけど、決してNOとは言わない。
そしてこの夏休み、私はスパイになるための修行に出たの。
2013/10/12