あいつってば、いっつも屋上で泣いてんのよ。
ムカつく奴だけど…


何故か、ほっとけないの。











南イタリア、ナポリの郊外。
初夏の日差しがサンサンと降り注ぎ、オリーブの花を照らしていた。
お金持ちが通うような豪華な学校の中に私はいた。
背の高い門は厳重にロックされ、24時間警備が付いている。
そこが開くのは朝の登校時間と夕方の下校時間だけ。

テロ対策も万全だ。
ありとあらゆるセキュリティーシステムが生徒を守っている。
ここはマフィア関係の子供が通う学校。
将来、裏社会を背負って生きる子供が通う学校だ。

そんな学校の中等部2年に私は在籍している。
っていったら知らない生徒はいない。
あのボンゴレ・ファミリーの9代目ボスの娘なんですから。








「あ!様、おはようございます!今日もいい天気ですね!」
様、今度、私の屋敷のパーティーに出席してくださいまし!」








ボンゴレと同盟のファミリー、同盟になりたいファミリーの娘・息子が私に媚を売る。



そんなの私に媚売っても何にも変わんないわよ、ばーか!!







、モテモテだな」
「うっさい、スクアーロ。黙れ」
「へいへーい。お前、黙ってたら綺麗な顔してんのにな」
…〜ッ!余計なお世話!」








同い年で隣のクラスのスクアーロ。同じボンゴレファミリー。
特殊な訓練を受けてるらしいけど、私には教えてくれない。
別に知りたくもないけど。

ちょうど午前の授業が終わり、ランチタイムに入った。
ほとんどの生徒は食堂へ向かう。
学校の食堂は生徒全員が座れる席数を確保しており、種類も豊富だ。
マフィアっていうのは、案外、食に気を使うのだ。

でも私は生徒の流れに逆らい、階段を上った。
4階建ての建物の中で2年の教室は2階にあった。
階段を上っていくと、立ち入り禁止の板が掛かるチェーンが現れる。
屋上へと続く階段だ。
それを無視して、私はドンドンと上った。
屋上への扉はいつも鍵が閉まっている。
だが、マフィアの子供に鍵なんかなんの意味もない。
誰もがピッキングの知識くらい持ち合わせていた。

しかし、今日はその知識を使わずして、扉が開いた。
誰かが先に屋上に来ているのだ。

「やっぱり…」

と独り言を言うと、私は軋む扉を開いた。











初夏の風は私の赤髪を靡かせた。
太陽は私のグリーンの瞳には少し、眩しすぎた。
若干、目を細めながらも建物の影に座る人物を見つけた。
相手はまだ私には気付いていないようで、ずっと俯いている。
私はそいつの前に仁王立ちになった。

自分の前に影が出来たことに気付いたのか、そいつは顔を上げた。








「……」
コラ!へなちょこディーノ!何してんの!?
「う…ごめん…」
「何も悪いことしてないのに謝るなッ!」
ひぃ!ご、ごめ…」
あ〜や〜ま〜る〜なぁぁ!!
は、はい!!









よしっ!と腕組みをするを怯えたような目で見るのは
同じ中等部2年で同じクラスのディーノ。
彼は泣き虫で臆病だけど、巨大ファミリー・キャバッローネの時期ボスだ。
彼には今、スパルタな家庭教師リボーンって奴が付いてて、学校を欠席できない。
なのに午前中、ディーノは教室にいなかった。
だから私はここに来た。
そうしたら案の定、ディーノがいた。

私は彼の横に腰掛けた。








「ねぇ、なんで授業出ないの?」
「…」
「またリボーンに怒られるよ」
「…いいんだよ」
「なんでいいのよ?」
「…どーせ、俺、何もできないし」
「…は?」
だって言ってたじゃん、俺のこと、へなちょこって」
「そ、それは…あんたを…」
「いいんだよ。どーせ、運動神経鈍いし、勉強もできないし、すぐ泣くし。
 ボスの資格なんてゼロだよ」
「ねぇ、ディ…」
だって、俺みたいなのよりスクアーロのほうが頼りになるだろ!?」
はぁ!?なんで今、スクアーロが出てくんのよ!」









私は怒った顔でディーノを怒鳴りつけた。
ちょうど数日前、私はスクアーロに告白されていた。
そのことはまだ誰にも話してないが、ディーノはきっと、そのことを知っている。










「…いいんだよ…俺なんて…」
「ディーノ!!!」
「!」
「スクアーロに何吹き込まれたか知らないけど、
 今のあんたは今までで一番嫌いだわ!!」
「…」
「体育祭でコケたときより、逆上がりできなくて鉄棒から落ちたときより、
 調理実習でお鍋焦がして火災報知器鳴らしたときよりも!!
 どの時よりも一番嫌い!!」









私はディーノの横っ面を引っぱたいた。
そのことにびっくりしたのか、私の顔を見たからか、ディーノは目を丸くした。
そのときの私の目には薄らと涙が滲んでいた。










「…私、スクアーロと付き合うから」
…え…
「…あんたなんて知らない…!じゃあね!」








そのまま、ディーノのほうを振り向かず、私は出入り口の扉に手をかけた。








「…おい!ッ!!
「へなちょこじゃなくなるまで…口、利かないから」
「…」









私は来たときとは正反対の気持ちで階段を下りた。
階段を一段一段、降りるたびに気持ちが下がっていく。









…バカ…ディーノ…










太陽を遮るものがない屋上は、とっても気持ちのいい場所のはずだった。
でも、私にとってそこは、近づきたくない場所になった。











屋上物語 -始まり-







2013/09/30