雨が降る…
とても悲しい夜だった。






悲しみは

雨のように

降りかかる










その日は久々に彼と食事だった。
彼は声が大きいからレストランを貸し切りにして、贅沢に食事をする。
イタリアの高級ホテル前で待ち合わせ。
いつも通りだった。
いつも通り、私はおしゃれをして、ホテルに行く。
待ち合わせ時間より前に彼はいて、私に手を差し伸べてくれる。
彼が私をエスコートしてくれるの。
でもその日ばかりは、先に彼はいなかった。
腕時計を見ると、待ち合わせ時間10分前。

きっと道が混んでるのよ

そう思い込んだ。
あと数分もすれば、彼の愛車、アルファ・ロメオが目の前に留まる。
そこから、大声で私を呼ぶの。
今日だけは私もお仕事はお休み。
いつもはスパイの仕事で世界中を駆け回る。
変装もして、何十ものパスポートを使いこなす。
私は天下のボンゴレ・ファミリーのスパイ。
そして彼は、ボンゴレの特殊部隊ヴァリアーの隊長さん。
気は荒いけど、とっても優しいのよ?
そう、もうすぐ聞こえるの

う”おぉぉぉい、!待たせたなぁ!!

って。
腕時計の針はすでに待ち合わせ時間を当に超えた数字を差していた。
私の横を綺麗に着飾ったお金持ちそうな人が通り過ぎる。
この中にマフィアがいるかもしれないけど、私には気付かない。
だって、今は「本当の」私だから。
待ち合わせ時間を一時間オーバーしたとき、ふと顔に何かが当たった。
それが雨だということに気付いたときには、もう多くの雨粒が私に落ちていた。






「お客様…中でお待ちになっては…」
「…いいの。ここで待つ」






気を使ってドアマンが私に声をかける。
それでも私は、中に入る気がしなかった。
通り雨ではなく、激しさを増す雨に、人通りは少なくなり、
やがては一人になった。
それでも彼は来なかった。
待ち始めてから2時間近く経った頃、私の携帯が鳴った。



〜♪



普段、彼とのプライベートで使う携帯。
仕事とは別で、個人的に契約してる携帯。
バッグから取り出し、通話ボタンを押す。
「もしもし?」と私が発すると、聞こえた声は彼ではなかった。






『もしもし??』
「…誰…?」
『私よぉ〜、ルッスーリア』
「…ス…クは?」
『…本当にごめんなさい…ボスも私たちも必死に…』
「スクは?」
『今日の任務で…本当にごめんなs…』






途中で電話を切った。
私の手から携帯が落ちた。
雨で濡れた道路に落ちていった。
そういえば、今日は任務後に会う約束だった。
そんなに危険な任務だとは思わなかった。
だってそんなこと、一言も言ってなかったから。

普段、私は泣かない。
仲間の死なんて日常茶飯事だし、殺したりもする。
でもこの時ばかりは、涙が流れたような気がした。
もしかすると、雨なのかもしれない。
そのときにはもう、雨が勢いを増していた。
まるで、私の悲しみが伝わったかのように。
もしかすると、彼の後悔なのかもしれない。
今となっては分からないけど。
分かることは、私の愛する彼・スクアーロはもうこの世にいないってこと。






いやぁああぁぁぁぁぁあああぁっ!!





私の叫び声が辺りに響いた。
しかし、その声は雨の音にかき消された。
誰も気付かない、土砂降りの中、私は泣き崩れた。
私の泣き声を隠すように、雨は勢いを増し、降り続けた。











2012/09/29