イタリアのローマ。
私は、ジェラートのお店に一人で来ていた。
そこのお店はそこそこ有名で、その時も数人の若い女性が店内にいた。
いつも一人で来るため、そこの若い男の店長も私を覚えてくれていた。






「お久しぶりっす」
「あ、覚えててくれたんだ?」
「綺麗なのにいつもお一人ですから…今日は?」
「シチリアレモンをピッコロで」
「ちょっとお待ちください」






イタリア男はキザな奴が多い。
彼もその一人で、少し大めに入れたジェラートのカップを「オレの気持ちっす」といいながら渡してくれる。
その日もそんな事を言おうとしていたのか、白い歯がキラーンと光った瞬間だった。
彼の顔からそのキラーンという光りが消えたのが見えた。






「…どうしたの?」
「あ、いや…どうぞ」
「へ?いつも何か言ってくれるのに…」
う”おぉぉい…
「へ…?」
「何してんだぁ?」
「ス、スクアーロ…」







ちょうど私の真後ろに睨みを効かせたスクアーロが仁王立ちで立っていたのだった。
店内にいた女性は全て逃げてしまい、男の店長も私にジェラートを渡した瞬間、店の奥に引っ込んでしまった。
スクアーロの顔から、彼がすごく怒っていることだけ分かったので、私は手に持っていたジェラートを彼に差し出してみた。







「た、食べる…?」
いるかぁぁ!!
ひっ…な、なんで怒ってんのぉ?」
「…帰るぞぉ」
「え?あ、うん…」






彼は私の手を強引に引っ張りながら路上に停めてあったベンツに押し込まれた。
一気にスピードを出して城に戻る途中、私は買ったジェラートを食べていた。
すると、彼の眉間にドンドン増えていくのが分かった。






「なんで怒ってんのよ?」
「…」
「ねぇ、スクアーロ?」
「…あいつと仲いいのか…」
「え?」
「あいつと仲いいのかって聞いてんだよぉ!!」
「あいつ…?あぁ、店長?別に、知り合いくらいだよ」
「ふ〜ん」
「な、何よ…」







ぷく〜っと膨れてみたが、無視するスクアーロにムカついて
ほとんど残っていたジェラートのカップをベチャッと彼の顔に押し付けた。
スクアーロが怒らないわけがなく、車が急ブレーキで止まり、バッと彼が私の顔を見た。

すごく怒ってる…






…てっめぇ!!!
「スクが悪いんだよ!!私何もしてないのに怒って!!」
はぁああぁぁぁあ!?
もういい!!降りる!!
う”おぉぉい、!!






通りにはスクアーロの大声が響き、通りの人々はみんながみんな私たちを見たが、私は気にせず、ズンズン通りを歩いて行った。
自分では思ったことはないが、世間一般には美人の部類に入るらしい。
通りを歩くと、ほとんどの人に二度見される。
怒ってるからそんな余裕はなかったのだが、何人かの男に声をかけられたらしい。

その中、少しガラの悪い男の誘いも無視したらしく、グンッと肩を掴まれたのを感じた。






「おい、姉ちゃん。オレの誘いを無視すんのかぁ?」
「は?誰、あんた…私、今怒ってんだけど」
「はぁ!?オレに盾突く気かぁ!?」
「それ以上言うと殺すわよ」
「は!オレは実はジャミー・ファミリーの殺し…ぶへッ!?
「うっさいなぁ。私、怒ってるって言ったでしょ」






大男を素手で伸してしまった。
ってかジャミー・ファミリーとか聞いたことない、と一言言ってまた歩き出した。
ほんと、イライラする。
いつの間にか、私は行きつけのバーに入っていた。






さん、今日はお早いお着きで」
「マスター、バーボン」
「一杯目から?」
「怒ってんの」
「かしこまりました」






マスターは何も聞かずにバーボンを出してくれた。
一気にそれを飲み干すと、おかわりを要求し、何故怒ってるのか、マスターに打ち明けた。
マスターもスクアーロのことは知っている。






「私、何もやってないのに!!」
「スクアーロさんはさんが大好きなんですねぇ」
「…へ?」
「だって迎えに来たんじゃないんですか?貴女を…」
「…そうなの?」
「だって、車で来てたんでしょう?それなのに、貴女が店長と仲良く話してたら、妬くでしょう」
「スクアーロが?」
「彼も初心なところがあるんです」
「…」
さん?」
「…謝ってくる」
「それがいいです」
「これ、お勘定。お釣、いらない」
「どうも」






私はタクシーを拾うと城へ帰った。
車を見る限り、スクアーロはもう帰って来てるらしい。
城に入ると、ルッスーリアがエプロンを付けて片手にフライパンを持ちスキップしていた。






「あら〜??」
「スクアーロ知らない?」
「なんかムスッとして部屋にいるわよ〜」
「ありがと」
、酔ってる?」
「別に」







私はスクアーロの部屋の前にいくと、コンコンとドアをノックした。
「誰だぁ?」という低い声が聞こえたのと同時に、ドアを開けた。
暗い部屋の中で、スクアーロはグビッと酒を瓶ごと煽っているのが見えた。
暗がりの中で私の姿が見えたのか、一瞬目が合ったが、そのまま、また瓶を煽ろうとしたので、
私は走ってスクアーロの手を押さえた。






「スクアーロ、飲み過ぎ」
「ふんっ!お前に言われたくねぇ」
「…ごめんね」







私から目を逸らすスクアーロに私はチュッと唇を重ねた。
彼はビックリして目を見開いた。
そんな彼を見て私はクスッと微笑んで、彼から離れた。






「久しぶりだね、キスするの」
「…ふんっ!」
「せっかく私からしてあげたのに」
「…」
「ごめんね。迎えに来てくれたのに」
「別に…」
「またドライブ誘ってよ」
「気が向いたらなぁ」
「むっ…!」







何よぉ!と言おうとした瞬間、今度は彼から唇を塞がれた。
軽いものじゃなく、深い深い、私の思考まで溶かしてしまいそうなキス。
スクアーロの長いシルバーの髪が私の頬にかかった。
そうしているうちにポン、とベッドに寝かされた。





「スク…」
「お前が悪いんだぞぉ!!」
「もう…!」







彼の髪はシャンプーの香りがして、
私が投げつけたジェラートの香りは消えていた。








ジェラート

のように


溶かして






2012/09/27