冷たい床が、頬にあたっている感覚で目が覚めた。









La Traviata  71










ひどく寒い場所だった。
明かりもなく、ただ、自分自身がそこにいることだけがわかった。










「う…」
「…お久しぶりです」
「お前は…」
「チェッカーフェイス…昔々、一度お会いしたと思います」
「…覚えてない」
「あぁ…記憶を消したんだったかな」
!?








暗い空間の中、チェッカーフェイスという男だけが、明かりで照らされている。
私は、その明かりによってかろうじて、賽の目に塗られた床を把握できた。








「今日は君の存在意義を理解してもらおうと思って来てもらったんだ」
「…はぁ?」
「ここは精神世界。本当の君はほら…」








パッと映し出された並盛の病院。
そこのベッドに寝ているのは、私だった。
ディーノが私の手を握って心配そうな顔をしていた。









「まぁ、君がここから出れば目覚めるよ」
「じゃあ今から戻るわ」
それはできない。
「何故!?」
「ここは私に管理された世界だからさ。
 さて、話を始めよう…」








そう言ってチェッカーフェイスはジャラっと金色の懐中時計を私に見せた。








「それ…」
「そう。君がボンゴレ一世にプレゼントした時計だ。
 それ以前に、この時計はこの世界を構築するひとつの物質だ」
…はい?
「私は、世界の秩序を守る一族に生まれた。現在ではユニと…君だけだがね」
…私が、世界の秩序を守る…?
「至宝トゥリニセッテとは、地球上の生命力のバランスを補正し、正しい進化に向け生命を育むための装置だ」
「…」







元々トゥリニセッテは今のようなおしゃぶり・ボンゴレリング・マーレリングに及ぶ21個の存在ではなく、7つの玉だった。
なぜなら遥か昔、我らが種族がまだ10人以上いた時、我々の力だけで7つの石に炎を灯し、機能させることができたからだ。
だが、仲間が一人ずつこの世を去り、私を含む5人だけになってしまった時、ついに我々の力だけでは7つの石を機能させることができなくなってしまった。
そこで、我々は新たな地球人の力を借り、7つの石を分割しておしゃぶりを作った。
炎を常に灯すためにおしゃぶりは脱着不能とされ、アルコバレーノというおしゃぶりを守るための人柱が作り出された。
残酷なシステムではあったが多くの地球上の生物を救うためにはやむなしだったのだ。

だが、さらに我々の仲間は死んでいき、とうとう私とユニの先祖、そして君のお母さんだけが残ってしまった。








…え?






3人ではとても残りの石を全て制御しきれない。
そこで残りの石を分割して作ったのがボンゴレリングとマーレリングだ。
この2つはユニの先祖の提案によいおしゃぶりとは違い、脱着を可能とし、数を増やした分、
一人の装着車への負担を軽くすることに成功した。








「ちょ、ちょっと待って!私のお母さんも時計の話も出てきてないわ!」
「そう。ここからは私の憶測だが…君のお母さんは、私たちを裏切った
「…え?」
「この残酷なシステムに唯一反対し続けたのが君のお母さんだ。
 ユニの先祖は未来を見通すことができる故に短命だったが、君のお母さんはそうではなかった。
 全てを見届ける義務があるものとして、永久の命を約束された存在だった。
 だからこそ、運命を見届けることを放棄した。
 リングを作るさいに散った石の欠片を集め、私たちの前から姿を消したんだ」
「…そんな…でも、お母さんは…!」
「そう、君の母親はあのジェラルド・と結婚し、君を生んだ。
 己の使命を全て、君に宿してね。」
「でも!でも、その時計はお母さんからもらったんじゃないわ…!」
「時計を錬金したあと、捨てたんだろうね。だから、バミューダに見つかった」
「!」








そこまで聞くと、意識が朦朧としてきて…最後にチェッカーフェイスのニヤケ顔が見えた。









「君には…運命を見届けてもらうよ。最後まで…それが使命だから








そこで私の意識は閉じた。
真っ暗な世界の中で一人スポットライトを浴びていたチェッカーフェイスは笑った。









はっはっはっ…人柱を一掃する…いい機会だ…なぁ、リディア…








チェッカーフェイスはふと、時計を開けた。
そこには、と似た、笑顔の眩しい女性が写っていた。









「君は…私の唯一の…女性(ヒト)だ…















2014/04/29