花魁姿でザンザスにお酌をしていると、シャッとふすまが開いた。









La Traviata  67







「ししっ ボース♪みやげっ」








ドデッという鈍い音とともに誰かが畳に倒れ込んだ。
連れてきたのはベルだろうか。
私は目をパチパチと見開き、倒れ込んだ少年を見て叫んだ。








ツナっ!?
「え…この声…さん…?と…ザ、ザンザス!!
 に、日本に…来てたの…?」

「あのね、ボス。こいつとリボーンをディーノがディナーに招待したんだ。
 やっぱりこいつがリボーンの代理だよ。
 僕の言った通りさ」








マーモンがザンザスに囁く。


やっぱり、私は、大変な間違いを犯してしまったのかもしれない…


そう思っていると、ツナが悲痛な叫び声をあげた。







マーモンの代理でヴァリアー来たのー!?
「決まってるじゃないか」
「で、でも…さん…」
も僕の代理だよ」
えぇーーっ!?
「ごめんね、ツナ。今回は敵同士ってことで」
そんなー!!








ツナが部屋に来て数分後、息を切らしたディーノがリボーンを連れてやってきた。







「あ、ディーノ!いらっしゃい」
!?おま、なんて格好…」








そう言おうとした瞬間、ザンザスが天井に向かって銃を打ちはなった。
バリーンという音と共に照明が割れ、上からガラスが降ってくる。
扇子を使ってそれを跳ね除けると、私は顔を扇子で覆った。
目だけはその不審な人物を捉えることに必死だった。
チェック柄の帽子、ネクタイ、手袋をはめ、常に笑い声を語尾に付ける。

「尾道」と名乗った男は、虹の代理戦争の詳細を説明しに来たと言った。







「ハハッ
 そこにいるお方はさんですね?フフッ」
「!」
「貴女がお持ちの『ジョットの時計』を回収させていただきます。ハハッ」
「…何故?」
「その時計は私の主人が本来の持ち主だからです。ヒヒッ
 今回の戦いの中心を担う物として、こちらも傷ついたら困りますから。ハハッ」
「今は持ってないわ。イタリアだもの」
「ご冗談を。フフッ
 その胸にかかってる時計がそうでしょう?フフ」
!?
「貴女のお命は主人の手の内なんですから…抵抗しないほうが身の為かと…フフッ!」








私はチラッとザンザスの顔を見た。
彼は言葉は発せず、顎をクイッと前に出した。
差し出せ、ということだろう。
私は渋々、首からかけていたチェーンを外し、時計を差し出した。
尾道はそれを大事そうにケースにしまうと、帽子をかぶり直した。








「では、私は帰らせていただきます。フフ」
「ボスさんよぉ、行かせていいのか」
「…」
「では ハハッ」








パタンと静かに閉まるふすま。
少しの沈黙のあと、マーモンが同盟についてザンザスに示唆した。

まぁ、ザンザスの一喝で交渉は決裂したのだが。









「気を取り直してウマイ飯でも食おーぜ」
「ヴァリアー怖くて生きた心地しなかったよ…」








ホテルの廊下を歩きながらツナは弱音を吐いた。
そんなツナを見てディーノは笑いながら言った。









「まぁ、どーにかなるって!」
「そんなぁ!さんだってヴァリアーに付いたんですよぉ!?」
「あー。それは痛いな…」
がいりゃぁ、敵の内部情報を簡単に調べられたのにな」







リボーンも口を開く。
レストランの入口に付いた頃、聞きなれた声がディーノやツナの耳に入った。







「ディーノッ!」
「…へ?」
「一緒に食べようよ」
!?」
「部屋が壊れたから私たちもレストランで食べることにしたの」
うそおぉ!!

「静かに食えるといいなぁ、跳ね馬ぁ」
「もう!スク、そんな意地悪言わないでよ。みんなで食べたほうが楽しいじゃん」
「…フンッ」
「シシッ!隊長さん、姫には逆らえないから」
「う”おぉぉぃ”!クソ王子、黙らねぇと…」
「ストップ!ここ、店なんだから喧嘩はナシよ」







私は立ち上がると、ディーノの腕を取った。








「ねぇ、いいでしょ?」
「はぁ〜…お前なぁ」
「ダイジョブ!ちゃんと喧嘩しそうになったら止めるし。ね、リボーンも!」
「まぁ、がそう言うなら」
「やった!ツナもいっぱい食べなよ。ディーノのおごりなんでしょ!?」
「(モノが喉を通らないよーッ!!!)」









※    ※    ※







真っ暗な空間。
自分がどこにどうやって立っているのかも分からないくらいで、感覚がおかしくなりそうな場所。
次の瞬間、パッとスポットライトが付き、男があわられた。







「ただいま帰りましたよ、ホホッ









もう一つのスポットライトが付く。
そこに座る鉄の帽子を被った男。
チェッカーフェイスと呼ばれた男は、尾道を諭すように言った。








「尾道よ、忘れずに全て伝えただろうな」
「え?ヘヘ
 嫌だあぁ、チェッカーフェイス様、ハハッ
 手にメモっていったことは全て伝えましたから大丈夫ですよ、ホホ。
 全てのアルコバレーノに虹の代理戦争用の腕時計を届けました、ハハ」
「…もう一つの時計は?」
あ!忘れてましたぁ…ハハッ!ここに…」








笑い上戸の尾道は独特の笑い方をしながらケースをチェッカーフェイスに差し出した。
チェッカーフェイスはそのケースを開け、中から金の懐中時計を取り出した。
愛おしそうに時計を撫でると上着の内ポケットにそれをしまった。








「200年ぶりの我が心臓よ…」
「ヒヒッ、心臓、ですか?」
「…また新たな人柱を探す時が来たのだ」








それだけ言うとチェッカーフェイスを照らしていたライトが消え、
その場には尾道だけが残された。







人柱…ハハッ!」









そして尾道を照らしていたライトも消え、暗闇が戻った。














2014/03/24