部屋で普段着に着替えると、パソコンを立ち上げた。











La Traviata  66







眼鏡をかけて大量のメールを消化していく。
大抵のメールは仕事の依頼だが、たまに重要な情報が入ったメールもある。
暗号もある。
例えば、とある国が核実験を始めるという情報。
まぁ、これはデマだと思うが、一応確認する。


そんな中、アルコバレーノが代理を付けて日本に終結したというメールもあった。
リボーンはディーノとツナを代理に付けた。
マーモンはヴァリアー
コロネロはチェデフ
ヴェルデは六道骸
スカルは古里炎真
という情報だ。
フォンとユニはまだ不明だった。
すると、携帯がなった。
非通知設定だが、海外からかけてきていた。

私は一応、世界共通語の英語で会話を切り出した。









「Hello?」
『いやー、イタリア語でいいよ☆
「! 白蘭…?」
『せいかーい☆よく分かったねぇ』
「一度聞いた声は忘れないの。
 私の記憶では、あんた、チェデフの監視下に置かれてたはずだけど…」
『そんなの、とっくの前に逃げたよ☆』
「!」
『まぁ、安心して。今の僕は君にとって無害だよ』
…それは誰かには有害ってこと?
『さぁね。それより、今からユニと一緒にそっちに行くからさ。ホテル名教えてよ』
「…は?」
『だって代理戦争、日本でやるんでしょ?俺たちも泊まる場所見つけなくちゃね』
「…どういう…」
『どーせなら皆一緒のホテル泊まろうよ!楽しいと思うよ♪じゃあね!』
ちょ…!








ブチッと切られた電話。
何度「もしもし!?」と言っても返答が帰ってくるはずもなかった。
「あー、もう!」と電話をバッグの中に放り投げ、サングラスをかけた。





ホテルのロビー。
カフェで本日2杯目のコーヒーを飲みながらどこに行こうかと雑誌を片手に悩んでいると、
誰かが私の前のソファに腰掛けた。
雑誌から顔を上げると、そこにはディーノが座っていた。








「よっす!」
「…ディーノ?」
「おぅ。どうだ、調子は?」
「…別に。普通」
「俺がいなくて寂しかったか?」
「…別に。普通」
「…話、聞いてるか?」
「…ん?」
「はぁ〜」






ディーノにサングラスと雑誌を取り上げられてしまった。
そして意味ありげに、車のキーを見せびらかせた。







「行くぞ」
「どこへ?」
「デートだ、デート。最近してなかったからな」
「…ほんと?」
「あぁ。代理戦争が始まっちまったらお前とは敵らしいからな。」









私は笑顔で立ち上がったディーノの腕にしがみついた。








「ディーノと行きたいところいっぱいあるんだー!」
「よし、じゃあ行くか。」








上着のポケットから自分のサングラスを出しかけるディーノ。
私のサングラスも返してくれた。

ホテルから車を走らせて数十分、雑誌に載っていたカフェにやって来た。
そこにはフランスで修行をしたシェフが作るモンブランが有名だと書いてあったのだ。
テラス席に座り、紅茶を飲んでいると、そのモンブランがやってきた。









「おいし〜!!今度フランスでも食べよ〜!」
「ははっ!あそこか?」
「うん。ココ・シャネル御用達のカフェ。連れてってね」
「今度な」
「ディーノさ、何階に泊まってんの?」
「ん?35階だけど」
「一つ下かぁ。やっぱ行けないやぁ」
「…昨日、オレの部屋来ると思ってたのに」
「そうなの。あんなもっさい奴ばっかの階で寝れられないって言ったんだけど…」
「お前がちゃんと話聞かねぇで返事すっからだろ」
「…ごめん」








不貞腐れていると、ディーノが何やら小さな箱を机の上に置いた。
私は目をパチパチしてディーノと箱を交互に見つめた。








「何、これ…」
「開けてみろよ」








綺麗なピンクのリボンを外し、箱を開けると、中からゴールドのブレスレットが出てきた。
よく見ると、キャバッローネの紋章にある馬がチャームとして付いている。








「それさ、母親のやつ」
「…ディーノのお母さん?」
「そ。親父がやったんだって。
 まぁ、母親がそれ付けてるの見たことなかったけどな。ははっ…」








ディーノの母親はディーノが生まれてすぐ病気で亡くなったと聞いている。
だから、見たことがない、というより記憶がないのだ。
渇いた笑いのあとには何故か虚しさが、広がった。
私は、箱からブレスレットを取り出すと、右手首に付けた。







「大事にする」
「おう」
「…わー。お洒落だね、やっぱり」
「…ちゃんとしたやつは全部終わってからな…」
「ディーノ?なんか言った?」
「別に」
「?」








何か考え込んだディーノ。
私はそれ以上何も言わず、紅茶の入ったカップに手を伸ばした。
紅茶を飲んでいると、周りの客の声が耳に入ってきた。










「ねぇ、あそこのカップル、美男美女じゃない?」
「どこの国の人かな?」
「あんな彼氏欲しーい」
「お金持ちっぽくない?」
「お金持ちでかっこいいとか、お金持ちで美人とか…何もかも持ってんじゃん!」








キャッキャッと女子トークが聞こえる。

何もかも持ってる

そんなことはない。
私は彼女たちが普通に持っている「両親」を知らないし、
ディーノは「母親」を知らない。
普通の友達なんていないし、警察から守られる立場でもない。
周りには敵だらけで、いつも気を張ってなきゃいけない。

彼女たちが送る平和な生活なんて一生できないのだ。




こんなことを思いながら、空になったカップをソーサーに戻した。








「行こう、ディーノ」
「え、あぁ。次、どこ行く?」
「ホテル帰ろう」
「もう?まだ昼の2時だぜ?」
「いいの。プール入ろ」








そう言ってディーノの頬にキスをした。
去り際、先ほどの女の子たちにウインクをし、「チャオ☆」と呟いた。








「わー!イタリア人だ!」
「モデルかな!?脚長いし!」
「イタリア行きたいな!!」
「ね!」








※    ※    ※








ホテルに帰り、プールでひとしきり遊ぶと、ディーノはツナとリボーンをディナーに招待していることを明かした。








「お前も来るか?」
「うーん。いい。ザンザスが一緒に食べないと煩いから」
「…仲いいのか悪いのか分かんねぇな」
「まぁね。でも最近は優しくなったよー」
「何かあったらいつでも来いよ」
「はは!ザンザスに勝てるの?」
「オレを誰だと思ってんだよ。キャバッローネのボスだぜ?」
「はいはい。じゃあね、ボスさん」







エレベーターの扉が開く直前、今度は唇にキスをした。

部屋に戻ると、スクアーロたちは既に酒をグラスに注いでいた。







「…もう飲んでんの?」
「ひゃは!姫はデート?」
「ベル、黙れ」
「跳ね馬、一つ下の階だろー?」
「べー!」
なっ!?







ベルと睨み合っていると、スクアーロが顎で奥の和室を指した。
ザンザスが和室にいるということだろう。
私はパチンと指を鳴らし、ニヤリと笑った。
それを見たスクは怪訝な顔で私に話しかけてきた。









「また何考えてんだぁ?」
な・い・しょ☆
はぁあ!?
「はいはい。スクは黙ってて」









数十分後、私は花魁の格好をしてザンザスの隣に座ってお酌をしていた。








「…なんの真似だ?」
「一度やってみたかったのよねぇ、花魁















2014/03/24