話し終えても、ディーノが動く気配はなかった。










La Traviata  63







…ディーノ?









私が彼の顔を覗き込むと、ギュッと抱きしめられた。









「ど、どうしたの?」
「…後で言うよ」
「え?」
「ちょっと思い当たる節があるんだ」
「…なにが…」
「そのデイモン・スペードって男は霧の守護者だったんだよな?」
「えぇ…そうよ。魔レンズはデイモンの武器だった」
「…。ツナたちを追いかけよう」
えぇ!?もう夜遅いわよ!?」
「明日の早朝、出発だ」
「えぇ…」









その夜、ホテルに戻るとディーノは私にキスをしてきた。








「…ほんと、お前は馬鹿だな」
「むっ!なんで…」
「そこまで、一世を愛していたのか?」
「…そうね。大空があるから、太陽が輝いていられるの」
「…」
「でもディーノも大空だわ。」
「そりゃ属性はな」
「違う…私にとっての大空。
 だから今の私も、あんたの隣だと目一杯輝いていられる」
「そうか」
「あんたが私を突き放したら、また死んじゃうかもね」
「…絶対にねぇよ」









翌朝早く、私たちはヘリに乗っていた。
ツナたちが向かったという無人島は日本からそう遠くない場所にあるらしかった。
ヘリで飛ぶこと数時間。
見えた島の外洋には9代目たちが乗った船が待機していた。

バリバリバリッと大きな音を立てて山の頂上に下りたときにはもう、戦いは終わっていて、
中央には私の知った顔の男が倒れていた。








「…デイモン…」
「貴女は…様!?何故…」
「さぁ?私、何かに選ばれたみたい」
「何かって…」
「貴方には関係ないわ」
「ッ…」
「200年前、貴方のせいで私は死んだ。
エレナはプリーモのせいで死んだ!!
「…やっぱり、エレナのことで…ジョットを恨んでいたのね。
 だから私を…」
そうだ!プリーモにも同じ苦しみを味あわせたのだ!!」
…でもジョットは貴方を許したでしょう?
!!
「…私だって、貴方を恨んでいないわ」
何故だ!!何故…」
だってこれが私とジョットの運命だって、受け止めているもの
ッ…!
「エレナだって運命を受け入れたはずだわ。」
…様…」
「貴方は生き過ぎたのよ…向こうできっとエレナが待ってるわ」
「…」
「私はまだそっちには逝かないけど、ジョットたちによろしくね」









デイモンが消えたあと、ふとツナたちの視線に気付いた。
ツナが持っていたのはあの皆で撮った写真を入れたペンダントだった。







さん…全部、見ました」
「あぁ…ジョットとコザァートの記憶?」
「はい」
「きっとコザァートも私のこと、好きだったのよ。
 私がジョットを選んでも、ずっと仲良くしてくれたわ」
「…そうみたい、ですね」
「あ!その写真、これ、私なの」
「…」
「隣がジョットね。エレナも幸せそうね」
さんが…オレのご先祖様なんですか?」
「え?」
「だって…」
「違う違う」
「…へ?」
「私とジョットの子供はお腹にいたけど、あの時の私は馬鹿だったから、
 赤ちゃんと一緒に死んじゃったの」
「…」
「ジョットの息子は、ジョットが日本に渡ってから結婚した女性との子供。
 私とツナは血が繋がってないわ」
「そう、ですか…」
「安心した?」
「いや…そういうわけじゃないんですけど…さん、悲しくないんですか?」
「ん?」








申し訳なさそうに私を見るツナ。
そんなツナを見て私は聞き返した。








「どうして?」
「だってプリーモと違う女の人の…」
「あはは!ツナはまだまだ子供だなぁ!」
へ!?







私はツナの頭をくしゃくしゃと撫で、そして抱きしめた。







「私はジョットが幸せだったらそれでいいの。
 日本に渡って、子供が出来て、最期は幸せだったと思うわ。
 それに、子孫がこうして、ジョットの意志を受け継いでる。
 これってとっても…幸せなことよ」
さ…苦し…」
「あぁ、ごめんごめん。
 それにツナ、若い頃のジョットに凄く似てる」
「…プリーモに?」
「うん。ジョットも少し、天然だったの」








私はふと、こちらを見つめる古里炎真を見て、
彼の頬に触れた。








「コザァートの子孫ね」
「…」
「ふふ!貴方もコザァートに凄く似てる」
「僕が…初代シモンに…?」
「えぇ。人一倍仲間想いで、人一倍優しかった
「…」
「きっと…コザァートも貴方を誇りに思うわ」
「でも…でも…僕は…ッ!」
「貴方は仲間のためにやったんでしょう?」
「!」
「じゃあ大丈夫。コザァートも分かってるはずよ。
 その指輪だって、コザァートは貴方だからこそ真の力を授けたのよ」









私はジョットとコザァートの子孫を見て笑みを浮かべた。







昔に戻ったみたい!










※    ※    ※









デイモンとの戦いから一週間後、エンマが何やら走って教室にやってきた。







ツ、ツナくん!!
「エンマ!?どうしたの?」
「これ、見て…!」







エンマが差し出したのは古びた写真だった。
結婚式だろうか。
ジョットはタキシード、はドレス、コザァートはスーツを着て、三人の笑顔が映し出されていた。







「僕、初代シモンがさんを好きだったの…ちょっと分かる気がする」
「オレも、プリーモがさんを愛した理由、分かるよ」







太陽のように輝く笑顔…
そんなさんの周りで笑う笑い声が、現代まで聞こえてくるような気がしたんだ…








『ねぇ、ジョット、コザァート、写真撮りましょう!』
『僕はいいよ!』
『お前も一緒に決まってるだろう』
『ジョット…』
『これ、ずっと飾っておくから…コザァートも大事に持っててね』
あぁ!


















2014/03/24