その年の暮れ、エレナの訃報を聞いた。











La Traviata  62







私利私欲のために戦うことが本望ではないと、ジョットは平和路線へと切り替え、
戦力を減らしていったのだ。
そして手薄になった縄張りの城が襲撃された。
その場にいたのがエレナだったのだ。







「そんな…エレナ…」
「すまない、…」
「…いいえ…エレナもきっと…平和を望んでるはずよ」







それでも止まらない涙に、ジョットは私を抱きしめてくれた。

その頃から南イタリアの戦局が悪化しているという噂が流れていた。
そこに孤立したファミリーがいるというのだ。
悲しんでいる暇などなく、ジョットは守護者を集めて会議を開いていた。



その頃、私の身体にも異変が起きていた。







う”…ッ
お、奥様!大丈夫ですか!?







急な吐き気に、使用人の女性が飛んでくる。
城にいた医師に診てもらうととんでもないことを言われた。







おめでた、ですね」
…は?
「まぁ、まだ3ヶ月といったところでしょう。ジョット様にお知らせしないとですね」
…言わないで
「え?おめでたいお話を、お伝えにならないんですか?」
「今は抗争があって忙しい時期だから…もうちょっと落ち着いてから」
「はぁ…奥様がそうおっしゃるなら」








私は溜息を付いた。
今ジョットに、心配なんてかけられないわ。

そんなことを考えながら医務室を出ると、廊下を足早に立ち去るデイモンがいた。








「デイモン…!」
「!…様」
「どうしたの?そんなに急いで…」
「私がシモンファミリーの救援に行くことになりまして…」
「シモン…?コザァートが危ないの?」
「…一世は貴女に何もおっしゃってないのですか?」
「え、えぇ…
 貴方もエレンが亡くなったばかりで大変なのに…無理しないで」
「…はい」








そのとき、デイモンの様子が以前と違うような気がした。
しかし自分のことで頭がいっぱいだった私は、何も言わずデイモンを見送った。


その後、この抗争が終わるまで私は妊娠のことを黙っていた。
しかし抗争が終局を迎えた頃からジョットは私を避け始めた。
私があげた時計のことを急に気にし始めたのだ。
寝るときも肌身離さず持つようになったし、私の話もあまり聞いていないようだった。








「ねぇジョット…」
「…」
「ねぇ」
「あ、すまん」
「大丈夫?」
「あ、あぁ…」
「私のこと好き?」
「え?」
「ねぇ、好き?」
「あぁ…愛してるよ」
「…」








その夜、私は死んだ。
自分で腹を刺した。
ジョットに突き放されたと思ったから。
でもそれはデイモンの幻覚だった。
私は失意と後悔が残るまま、死んだ。








※    ※    ※








が死に、デイモンが去った城内。
いつも以上に閑散としていた。
生気のない顔で廊下を歩くジョットに、城の医師は声をかけた。








「ジョット様…」
「あぁ…土葬にするよ。墓の場所は…」
「奥様に、まだ聞いていなかったのですか…?」
「え?なんのことだ?」
「…奥様のお腹にはお子様がいました」
「…え?」
「勿論、母子ともに助かりませんでしたが…事実だけでも」
「…何故…」
「奥様はジョット様に心配をかけたくないと、私共も口止めされておりました…」
「…」








ジョットは書斎の椅子に力なく座った。
数時間後、ジョットはGを書斎に呼んだ。








「…ジョット…」
「Gか…俺は、ボスの座を降りようと思う
「…」
「G…お前なら分かってくれると…」
「勿論、俺はお前の意見には全て賛成だ」
…日本へ行こう。そこで、静かに暮らそう…」
「あぁ…」







渡航当日の朝、ジョットは小高い丘に来ていた。
街が見渡せる丘。
の愛した街が見渡せる丘だった。
そこには眠っていた。








「…、俺がこうしてここに来ることはもう二度とないだろう…
 お前はそれを許してくれると信じている…
 またいつかきっと、俺たちは巡り会える。
 そのときまでずっと、お前だけを想い、愛し続けると誓おう」







持ってきたカーネーションにキスをすると、それを捧げた。
カーネーションはの一番好きな花だった。
その後、ジョットは日本へたち、そこで一生を終えた。




















2014/02/27