外の空気は、清々しく、綺麗だった。











La Traviata  58








初めて外の空気を吸った。
初めて外の人間を見た。
初めて外の空を見た。
全てが広く、綺麗だった。


人々は貧しかった。
服は擦り切れ、肌は汚れていた。
それでも人は笑い、楽しそうだった。







「そこのお嬢ちゃん!これ、どうだい?」
「え…」







そんな掛け声に戸惑っていると、後ろから誰かに当たられた。
「ったく、よそ見てんじゃねーよ!!」と野次を飛ばされた。
驚いていると、おばさんが困った顔で言った。







「最近、あんな奴が増えてねぇ。
 お嬢ちゃん、可愛い顔してんだから余計気を付けなきゃダメよ?」
「は、はい…」
「ところでお嬢ちゃん、どこの家の子だい?お金持ちそうだけど」
です
「……あ、あぁ…そうかい…」







そう言って先ほどまで笑顔だったおばさんは、店の奥に引っ込んでしまった。
私の言葉を聞いたのか、周囲の人間はみんな店や家の中に引っ込んだ。
道には私しかいなくなった。
居心地が悪くなった私は、その場を足早に立ち去った。
しかしどこを見ても、どこに行っても私を見る目が気になって仕方がなかった。
少し早足でキョロキョロしていると、ドンッと誰かにぶつかってしまった。









「?」
「あ、す、すいませ…」
…お前は…
「あの、すいません。急ぐので!」








その日、私は何もできずに屋敷に戻った。
屋敷では使用人総出で私を探していたらしく、帰った瞬間、安堵の声が広がった。
一番に私に声をかけてきたのは使用人のアルベルトだった。








「お嬢様!どこへ行っていたのですか!?
「ちょっと散歩」
外は危ないですから、出てはいけないとあれほど…!
「うん。今度から守る」
「…お嬢様」
「なに?」
「明日、私は外の花屋に買い出しに行く用事がございます」
「…それが?」
「もしよろしければ、ご一緒に行きませんか?
 私が、お嬢様をお守りいたします」
…考えとく
「はい」







翌日、私はアルベルトが手綱を持つ馬車に乗った。
花屋の帰り道、とある通路に入った。
古くなった倉庫が立ち並ぶ通路。
そこで、私はある人物を見つけた。








「アルベルト、止まって!」
「は、はい!」
「ちょっと待ってて。」
「お嬢様!?」







急いで馬車を下り、道を走った。
そして私はその場にいた少年に声をかけた。







「ねぇ」
「…ん?お前は…昨日の…」
「貴方の名前は?」
「…オレはジョットだが…
 人の名前を聞く前にまず自分から名乗るべきじゃないのか?」
「あ、あぁ…ごめんなさい。私は…」
「どうした?」
「私は。よろしくね」
「あぁ。こいつはGだ」
「よろしくな」








二人の少年に笑顔を見せると、私は周囲を見渡した。
擦り切れた服を着た子供が多く、その子供たちは痩せこけていた。









「この子達は…?」
「孤児さ」
「…孤児?」
「親が貧しいあまりに子供を捨てるんだ」
「そんな…」
「でもオレたちは幸せだぜ。みんなで笑顔でいれば、辛いことも耐えられる」
「…笑顔?」
「あぁ。は…その服を見てると裕福そうだな」
「わ、私は…そんなことないわ。ちょうど余所行きの服を来てただけ。
 じゃあ私、帰るわね」
「あぁ」
「あの、ジョット?」
「?」
「また、来てもいいかしら?」
「あぁ…待ってる」
「うん!」








私は笑みを浮かべてお礼を言った。
私が乗った馬車がその場を離れるとき、Gがジョットに耳打ちした。







「あの紋章…たしか…」
「あぁ…家だ。
 家の令嬢ってわけだ」








※   ※   ※








屋敷に戻っても、私は終始笑顔が絶えなかった。








〜♪
「お嬢様、ご機嫌ですね」
「アルベルト!ねぇ、明日はどこか買い出しいかないの?」
「そうですねぇ…明日は何もないですね」
「…そう」
「あの少年ですか」
え!?
「彼らはお嬢様と同じ年齢くらいでしょうか。
 自ら働き、賃金を得て貧しい過程にも分け与えているそうですよ」
「…ジョットたちはいい人なのね」
「そうですね」
「じゃあ私たちは…悪者だね」







先程までの笑顔は消え、花瓶に生けた花に触れた。
今日買った、カーネーションだ。
色とりどりのカーネーションは花瓶の中で優雅に咲いていた。








「知らなかったの…ずっと屋敷の中にいたから…ここの世界が普通だと思ってた。
 みんなこんな生活してるんだって。
 じゃあ、違うんだね。
 みんな、貧しかったんだ…
「…」
「アルベルト…私にも、何かできるかな?」
「お嬢様、危険すぎます」
「うん。がやったって言ったらまた状況が悪化するんでしょう?
 だから、匿名で深夜に…
 手伝ってくれるでしょう?」
「お嬢様…」








その日の深夜。
アルベルトは馬車を走らせた。
貧しい地区の家の前に食料を置いていく。
家には食べきれない程の食料があったから。







これで…少しでもジョットたちの手助けになれば…


















2014/02/11