200年前のイタリア…
ボンゴレファミリーが設立して5年後のことだった。











La Traviata  45









私は由緒正しい血筋であった家を破門された。
理由は


貴族としてあるまじき行為を行ったから


貴族とは、民の上に立ち、民を従え、民を使うものとされていた。
それが民と共に力を合わせて貴族に立ち向かう側に付いた私はいらぬ存在となったのだ。
その頃には私とジョットは結婚していたし、両親とも元々仲が良くなかったせいもあって
嫌な思いをすることもなかった。



あるとき、ジョットたちが何やら重要な会議があると言って城の談話室に籠ってしまった日が数日あった。
何やら同盟ファミリーが危機らしい。
そんな重要な話に女の私が入れるわけもなく、毎日を退屈に過ごしていた。








…」
「あら、ジョット。今日は終わり?」
「いいや。ちょっと休憩してからまた戻る。一人じゃ退屈だろう?」
「そうねぇ…でも慣れたわ」
「子供でもいれば、また変わったのにな」
「あの、ジョット……」
「気分転換に街でも行ったらどうだ?昼間なら安全だろう」
「そ、そうね!明日、行ってみる」
「あぁ」









私は『あのこと』をジョットに切り出せぬまま、また日が過ぎてしまった。

翌日、私はツバの広い帽子を被り、あまり顔が目立たないようにして街に出た。
ボンゴレファミリーの支配が広がった街であってもまだ家の力が残る地域もある。
その地域での私という存在は、「悪」そのものだったからだ。
だからこそ、ジョットも私を一人で外に出すのを躊躇っていた。
いつ襲われるかわからないから。
だが、初めて、一人で外に出ることを許可されたのだ。








「いつもはGやランポウが一緒じゃなきゃダメだって言うのに…どうしてかしら…」







そう独り言を呟きながら街一番の大通りを歩く。
花屋やパン屋、肉屋、それにカフェがズラッと並ぶ。

ジョットと来れたらきっと楽しいのに…

と思っていると、ふと通りの角にある時計屋を見つけた。
古びた外装、ショーウィンドウには時計も飾っていない。
でも看板には『営業中』の文字があった。
好奇心を抑えきれなかった私は、そっと、そのドアを押した。






ギィッ







軋むドア。
店内は薄暗く、埃っぽい。
そんな奥にあったカウンターに男が立っていた。
男は私を見ても一言も発しない。







「あ、あの…営業してます…よね?」






聞いても答えない男。
私は薄気味悪くなって、帰ろうとドアノブに手をかけた。







…だね」

「君を待ってたんだよ」
「あ、あの…どうして私の名を?」
「勿論、あのボンゴレファミリーのボスの妻だからだよ。噂はかねがね…」
「そ、そうなんですか…私、そこまで何もしてませんけど」
「いいや。
 その太陽のような笑顔に、ジョット君は惚れたんだよ」
「…ジョットを知ってるんですか?」
「古い馴染みだ。さぁ、そこの椅子にお掛けなさい」








椅子を指差す男。
でもその男の口はさっきから一ミリも動いた気配がなかった。

ジョットの古い知り合いなら、失礼なことはできないわ…

そう思い、椅子に腰掛ける。
そこでやっと、男の横に赤ん坊が座っているのに気付いた。
怪我をしているのか、全身を包帯で覆われている。
その不気味な風貌よりも、透明に澄んだおしゃぶりのほうに目がいってしまう。







「これを、ジョット君に渡して欲しいんだ」
「懐中時計…ですか?」
「ボンゴレファミリー創設記念で作ったんだが、渡す機会がなくてね」
「それなら今から城へ…」
「いいや。君からのプレゼントとして渡して欲しい
「え…?」
「そっちのほうが彼も喜ぶだろう。
 この時計には特殊な魔法をかけておいた。君の願いはなんだい?」
「私の?」
「そう、君のだよ」
「私の願いは…ボンゴレファミリーの繁栄と永遠の平和…」
「それはいいことだ。
 この時計は幾年にも渡ってボンゴレファミリーを見守り続けるだろう…君と共に…」
「…え?」
「さぁ、もう行きなさい」








私は時計を押し付けられ、店の外に追いやられた。
店主の名前を聞きそびれたと思い、振り返ってみると、そこはただの廃屋だった。








「…今の…夢?」







でも手に握られた時計が夢ではないことを示していた。








その夜、私は小さな木箱を綺麗にラッピングしてベッドの上に置いた。
寝る間際になって気付くようにと。

その夜、私がドレッサーの前で髪を梳かしていると、彼の驚いたような声が
後ろから聞こえてきた。








、これ、お前が?」
「ふふ!開けてみて!」









シュルッとリボンを解いて箱を開けるジョット。
は彼の隣に腰掛け、その様子をマジマジと見ていた。







「…時計か」
「えぇ!懐中時計。貴方のスーツに似合うと思って」







ジャラッと鎖を持って時計を見つめるジョット。
中央にはボンゴレの紋章が掘られている。

ジョットはにチュッとキスをした。







「ありがとう。大事にする」
「うん」






昼間の出来事はジョットに話すことはしなかった。
私からのプレゼントだと聞いて喜んでいたし、最近見せなかった笑顔も見れた。
ただ、少し引っかかるのがショットの知り合いだという店主。
出た瞬間廃屋になる店。
何故、そんなところに惹かれたのだろうか。







まぁ、気のせいよね
















2014/02/06