作戦室。
ヴァリアー、特にスクアーロのの大声が響く。






La Traviata  33






うお”ぉぉぉい!!!
 首の皮はつながってるかぁ!?
 クソミソカスどもぉ!!!


「じゅ、十年後の…」
スクアーロ!!!
「ボリュームを下げろ!」
「は、はい!」








要件を大声で叫ぶだけの動画に、私は耳を押さえながら溜息を付いた。
全く変わらない大声に、10年後の私はどうやって対応していたのだろうか。

ブツッと動画が切れたあと、イタリア帰りの笹川了平がドアのところに立っていた。
イタリアにあるボンゴレ本部にいたようだった。








「それでだな、沢田に話があるのだが、まずはキャバッローネの…」
「私のこと?」
「おぉ!…ん?縮んだか?」
「10年前のなの」
「そうか!じゃああのチビはいないんだな!折角土産を…」
「要件を先にどうぞ!」
「あ、あぁ…
 ヴァリアーがお前を呼んでいたぞ」
「…は?」
「お前の兄貴のザンザスだ。ザンザスがお前を守ると言っておった」
「…はぁ!?なんでザンザスが…」









ほれ、と渡された写真。
それにはザンザスと私が腕組をしてビーチにいる写真だった。
私は満面の笑みで、ザンザスもまんざらではない様子が写っていた。







「10年前のリング争奪戦後、お前からザンザスに歩み寄っていったんだ。
 『兄妹は仲良くないと9代目に悪い』ってな」
「…」
「イタリアのヴァリアー本部はまだ持ちこたえている。
 幼いロベルトと二人ならそっちのほうが安全だと考えたんだろう」
「いいえ。行かない。」
「む?」
「私はここにいる。だって私は10年前の私だもの」
「…ではそうザンザスに伝えるぞ」
「えぇ」








自分の部屋に帰る途中、携帯が鳴った。
10年後の私が所持していたもので、部屋に置いていたバッグの中に入っていた。
部屋は子どものおもちゃや服でほとんどが占領されていて、携帯の待ち受けも家族3人で撮ったものだった。
10年後の私はどれだけ親バカなのか、と半ば呆れながらも
幸せそうに笑う自分を見てなんだか嬉しくも思えていた。

携帯の待ち受けにはザンザスの文字が浮かんでいた。







『…よう』
「…どうも」
『…お前も若返ったか?』
「えぇ」
『笹川から作戦の話は聞いたか?』
「…作戦?」
『5日後にミルフィオーレ日本基地へ殴り込みに行くという内容だ』
「…初耳ね」
『そういうことだからこっちに…』
「行かない」
『…は?』
「私は10年前のだし、その頃の私はまだアンタを許してない」
『…』
「じゃあね」









ブチッと通話を消し、ベッドに投げた。
机に突っ伏して今の状況を整理した。

ここに来る前、私はイタリアのとある質屋にいた。
ずっと預けていたこの時計を受け取るために。










※  ※  ※





リング争奪戦後、私はイタリアに帰ってきていた。
そしてローマの大通りからちょっと入った路地にある店に入った。








カラカラーン









鐘がセンスよく鳴る。
奥のカウンターで居眠りをする老人が目に入った。
鐘が鳴ったにも関わらず舟を漕ぐのを止めない。
カツカツと進んでいき、持っていた紙袋をカウンターの上に置いた。
ゴトンという重そうな音と共に、老人がビクッと身体を震わせた。









「お、おぉぉ…い、いらっしゃい…ってか」
「どうもチェザーレ、元気?」
「いやー、最近眠気には勝てんでな。で、今日は?
 イイもんが入っとるぞー。これはな、マンドラゴラの根っこなんじゃ!本物かは知らんが…
 んで、これは200年前の魔女の爪。これも本物の保証はない。あとは…」
「私に黒魔術でも習得させるつもり?今日はアレが欲しいの」
「…アレ?」
「この前修理に出したでしょ、アレよ」
「…あぁ!アレな!








ポンと手を叩きながら奥へ引っ込んでいく老人の背中を見て私は溜息を付いた。
「あのじいさん、大丈夫かしら…」と独り言を言いながら店内を見渡した。
先ほど言っていたマンドラゴラの根っこや人の手の形をしたモノがフラスコの中に入っている。
この店は本当に薄気味悪い。
でも店主であるチェザーレ・アミルカレはマフィア社会でも有名な情報屋。
普段は変なものを売っているため、一般人は寄り付かないが、のようなスパイや、情報がほしいマフィアは 大金を持ってやって来る。
まぁ、大抵は変なものを売りつけられて帰らされるだけなのだが。
そんな中、はチェザーレに気に入られ、多くの情報を売ったり、買ったりしている。

ふと目に付いたモノがあった。
綺麗なルビーが付いたネックレスで、ケースに入っている。
鍵が壊れているのか、ケースは簡単に開けることができた。
好奇心だけで、触れようとした。








ストップ!!!!
「!」
「それに触れちゃいかんぞ、
「びっくりしたぁ…チェザーレ、大声出さないでよ」
「すまんすまん…それは呪われていてな」
「うそぉ…」
「200年前の貴族のモノじゃ。」
「へー。綺麗なルビーね」
「それはルビーじゃないぞ」
「へ?そうなの?真っ赤だけど」
「血を吸ったダイヤモンドじゃ」
「えぇ〜。絶対ウソだ」
「男に未練を残して死んでいった女の血を吸ったダイヤは今もなお、その男を待っている」
「…」
「っていう伝説じゃ!そういうと誰も買おうとせんがな」
「そりゃそーよ」
「ほれ。持ってきたぞ。あいつにやるのか?」
「まぁね」
「…ウソだな」
「!」
「このチェザーレがウソを見抜けんとでも思ったか?え?」








コトッと小さな木箱がカウンターの上に置かれた。
修理、というのはウソ。
この時計は200年も前から正確に、一秒の狂いもなく時を刻み続けている。
そんな時計を木箱から出し、見つめた。
中央にはボンゴレの紋章。

これが正真正銘の『ジョットの時計』だ。










「今頃取りに来るとはな」
「…ちょっと事情があって」
「ここに置いておくのが一番安全だと言っておったのにな」
「あはは!そりゃここが一番安全だと今でも思ってるわ」
「…」
「でも…」








ここで会話が途切れ、はチェザーレの前から消えてしまった。







「…、お前はその時計と生きる運命なんじゃよ…」








それだけ言って、老人は再び舟を漕ぎ始めたのだった。











2014/01/31