そして私たちは空港にいた。








La Traviata  28






リング争奪戦が終わって早3日。
祝勝会も終わり、私たちがランチアを無事イタリアまで連れ帰ることになっていた。







「じゃあね、ランチア」
「何から何まで…何て礼を言ったらいいのか…」
「いいんだよ、別に。ツナの知り合いなんだろ」
「あぁ…ディーノに…ありがとう」
「また何かあったら言ってちょうだい」
「あぁ…俺からは言いにくいんだが…お前たち、何かあったのか…?」

「「え?別に…」」

「そうか。じゃあな…」






ランチアは一般機に私たちは個人機でイタリアに帰った。
イタリアまでに十数時間、私たちはまともに口を効くことはなかった。








「いつからだ?」
「へ?」
「いつから…気付いたんだ?」







イタリアのボンゴレ・ファミリーの城。
私の自室でようやく、彼は私に向かって口を開いた。
その声は重々しく、腹の底からようやく絞り出したようだった。







「俺がボンゴレの歴史を何も知らないと思ってたのか?
 いつからお前たちと同盟を結んでいると思う?
 150年も前からだ。双方の歴史くらい知ってる。
 お前が初代の妻と同じ名前だってことも、気付いてた」
「…」
「だが、それがなんだ?
 今のお前と昔のは違う人物だろう!?
 何でそんなに…苦しそうな顔をする?



「違うのよ…」








私も声を絞り出した。
ドレッサーの引き出し、その下に分からないように隠した小箱の中からあるモノを出した。
金色のチェーンの付いた、ペンダントをディーノの手のひらに落とした。








「これ、私を拾ったときに付けてたモノらしいの。
 ずっと私の両親だと思ってたのよ、その中の写真。」







パカッと開けると、そこにはが写っていた。
隣の男性はディーノの記憶の中にある、ボンゴレ初代ボスのジョットだった。
写真も随分昔のものだからか、セピア色も色あせていた。








「それ、私よ」
「…何を馬鹿なことを…200年以上も前の写真だ」
「そうね」
「よく似てるが、先祖だからじゃないのか?」
「違う。それは200年前の私。
 と夫のジョット。意味分かる?」
「…わかんねーよ、なんだよそれ…」
「私も分からないわよ。200年前に自殺したはずなのに、この時代に赤ん坊として戻ってくるなんて」
自殺!?
「そう。ジョットを愛してたから…」









それを聞いたディーノは溜息を付きながらソファに腰を下ろした。
立っていられなくなったのだろう。
私が彼の肩に触れようとしたが、それを突き放されてしまった。








「お前は…誰を愛してるんだ?」
「そんなの…」
「『ディーノに決まってる』ってか?」

「いいや違う。
 お前の中には3人いる。
 ジョット、スクアーロ、俺だ」
「…」
「俺もそんなに心の広い男じゃない…
 俺だってお前を独り占めしたいんだよ」
「ディーノ…」
「同情ならいらねぇーから…はっきりしてくれよ」









ため息を付いて俯く彼の隣にそっと座った。









「『ロメオとジュリエッタ』…」

「私の好きな本、知ってるでしょ?
 私とジョットってこの話みたいに終わっちゃったんだぁー」
「…覚えてるのか?」
「はっきりは覚えてないけどね。今でも記憶も曖昧だし、思い出さないほうがいいんだと思う。
 まぁ、ジョットとの間には子供なんていなかったし、
 きっと彼も最後は私を忘れて日本で幸せになったはず。
 だから今のボンゴレがあるのよ。」
「…何が言いたい?」
「そうねー。
 私も幸せになりたいってことかな。」
「!」
「200年前は幸せになれなかった…だからまだここにいるのよ、きっと。
 ディーノは…私は幸せにしてくれる?」








チュッとディーノの頬にキスをした。







「何を心配してるのか知らないけど、私にはディーノだけだから。
 そりゃ、スクアーロのことも心配するかもだけど、それはあんなヤツでも友達だから。
 ジョットのことを気にしても、彼はもういないし…心配することない」
…」
「ん?」
「いや、何もない」
「キャバッローネのボスさんがそんな弱気発言していいんですかぁー?」
なっ!?
「過去は過去。今は今。未来は未来、よ。ディーノ」
「そだな…
 じゃあ、メシでも行くか!」
「そうしよう!」
「何食う?」
「久しぶりにピッツァがいいな!」
「お!俺もそんな気分だったんだ!」








ディーノと腕を組んで外に出た私。
こんなとき、ディーノがピッツァを食べたがることくらい分かってたし、
納得したようだったけど、ホントは納得してないことも知ってる。
でも今の私にはディーノがいないとダメだってこと、分かってほしいの。



















2014/01/29