泣き崩れる私の他、周囲を沈黙が襲った。









La Traviata  25








『ははっ!義手かぁ。まさかだったなぁ』
『…山本ぉ!それを知ってお前はどうする?俺に死角なんてねぇんだぜぇ!!







そういう声がスピーカーから聞こえる。







「ごめん…ごめんなさい!山本!!
 私がもっと早く言っていれば…対策…できたのに…!!」
さん、大丈夫っすよ!』
「…」
『だって時雨蒼燕流は完全無欠・最強無敵っすから!








そう言ってスクアーロに向かっていく山本。



私はなんてバカなことをしたんだろう…
この子たちはこれからのボンゴレのために、私のために戦ってくれてるというのに。



そう思うと余計、涙が止まらなくなった。








「時雨蒼燕流…攻式九の型…


           うつし雨…







スクアーロが倒れたと共に山本の手に雨のリングが落ちた。
それと同時にスッとディーノが私に手を差し伸べ、立たせてくれた。








「ほら。泣くな」
「…ごめん…」
「分かってる」
「…」


ぶはっはっはっ!ざまぁねぇ!!
 負けやがった!!








大声で笑い、スクアーロを罵るザンザス。
私は拳を握ったが、ディーノにキツく抱きしめられていたため、動けなかった。

アクアリオンに放された獰猛な海洋生物。








「スクアーロ氏は敗者となりましたので生命の保証はいたしません」

「なっ!チェルベッロ!無責任よ!!
様、これが掟でございます」
ッ!!






アクアリオン内では、自身も怪我をしているのに山本がスクアーロを背負っていた。
崩れる床で、バランスを取れない山本にスクアーロが呟いた。








「おろせ」
「!?」
「剣士としてのオレの誇りを汚すな」
「でも…よ」
う”おぉいっ!
 うるせぇぞ!!








そのままスクアーロは山本を蹴り上げた。
このままだとスクアーロが襲われてしまう。
私はディーノの腕から逃れようとしたが、力が強すぎて離れることができない。









「!」
「ガキ…剣の筋は悪くねぇ…
 あとは…その甘さを捨てることだぁ」








赤く染まる海水。
私は息を飲み、そのまま何も考えることができなくなってしまった。

数十秒後、赤い海水が量を増した頃、ようやく事の重要性が分かり、口を開いた。








「ディーノ…スクアーロ、助けてよ…」
「…」
「ねぇ…お願いよ、お願い…スクを助けて…」
…」
お願い!!早く!!早くしないと、スクが!!
 私たち、友達でしょ!?早く!!助けてよ!!

…もう遅いんだ…」
ねぇ!!なんで!!なんでよ!!お願いよ…!!お願い…








ドンドンとどれだけディーノの胸を叩いても、彼は動くことがなかった。
声を上げて泣く私を、包み込んでくれているが、心ここに有らずの私には無意味だった。









「やだ…やだやだやだ!!スクが死ぬなんて!!やだぁ!!
…」
いやぁ!!










スクアーロを笑うザンザスの笑い声と私の鳴き声だけが辺りに響き渡った。









※    ※    ※









携帯が鳴っている。
泣きはらした目を擦りながら携帯の画面を見た。







「はい」
『私、オレガノよ。、久しぶり。声、どうしたの?』
「…何でもない…」
『そ。緊急なの。
 貴女のことだから、軍の秘密兵器の設計図が誰かに盗まれたって話、知ってるわよね?』
「…あぁ…一年くらい前の話ね。勿論、覚えてるわ」
『その設計図、見つかったの。城の地下室で』
!?
 …ボンゴレの誰かが盗んだってこと?」
『恐らく。
 見つけたのはプロトタイプの設計図だったんだけど、これが完成したら大変なことになる。
 あとで貴女のパソコンにデータを送るわ。』
「ありがと。私も調べてみる」
『…大変な時に、ごめんなさい』
「いいのよ。それより、9代目は、大丈夫?」
『親方様が見てるわ。貴女、自分のことを心配したほうがいいわ。』
「家光に代われる?」
『あ、あぁ…今、親方様はいないの』
「…そ。じゃあ、気を付けて」










電話を切ったあと、時計を見た。
既に夕方の6時を回っている。
泣いて泣いて、ロクに眠りも出来なかった。

リビングに行くと、静かに本を読むディーノがいた。








「…大丈夫か?」
「…」
「なぁ、
「…今日は霧の戦いだから…誰が守護者なのか、見に行かなきゃね」
「いや、今日は雲雀の戦いだ…」
…え?
「丸一日寝てたんだよ。ショックが大きかったんだろう」
「そんな…」
「大丈夫。チェルベッロには許可を得てる」
「…着替えてくる」








並中のグランドにはまた違うフィールドが作られていた。
目の前にあわられるヴァリアーの面々。
その中に勿論、スクアーロの姿はない。


雲の守護者の戦いはあっけなかった。
雲雀の相手にゴーラ・モスカは不釣り合いだった。


それにしても…


私はゴーラ・モスカを睨んだ。
あれが軍の秘密兵器の完全版。
炎を動力源として動く。
炎さえあれば半永久的に稼働する仕組みだ。
でも、あれは有人の設計だった。







「誰が…あの中に…?」







モクモクとゴーラ・モスカから煙が上がる。
「足が滑った」とザンザスがフィールド内に入り、雲雀と戦闘を始めてしまった。

そんな中、ゴーラ・モスカが暴走し始めた。







「俺は止めに行こうとしたんだぜ?
 それをそっちの雲の守護者に邪魔されたんだ
 ゴーラ・モスカは…もう制御がきかねぇ」







面白そうにいうザンザス。
あんな無茶な動きをしたら炎の消費が激しいはず。
中の人間はきっと、もたないだろう。


暴れるゴーラ・モスカを止めたのは修行から戻ったツナだった。
彼にターゲットを絞ったモスカはツナ目掛けて飛んでいく。




それにしてもおかしい…
今日のオレガノからの電話。
GPA探知機で見ると城の地下水路だった。
それに少し同様したような声。
モスカのプロトタイプ…

家光に代わって欲しいと言っても代わってくれなかった。
家光に何かあったとしたら?
9代目が家光に保護されてなかったとしたら?

これが全て…ザンザスの仕業だったとしたら…?






一つの悪夢が脳裏に過ぎった。

ツナがモスカを焼き切ろうとした瞬間、私は叫んだ。








ツナ!!ダメッ!!!!!








ブバッ!!








私の声はツナには届かず、モスカは真っ二つに切れ、中から人間が出てきた。
9代目だった。

私はフィールドに向かって走り、9代目に寄り添った。
それと同時にリボーンも応急処置をしようと駆け寄ってきた。








9代目…!!
「おい!しっかりしろ…!」
9代目!!目を開けて!!
「9代目は…ゴーラ・モスカの動力源にされてたみてーだな」
「ど…どーして!?」

どーしてじゃねーだろ!!
「!?」
「てめーが9代目を手にかけたんだぞ」
「オ…オレが…?」
「やべーな。応急処置でなんとなる傷じゃねーぞ…」







私たちに歩み寄るザンザス。
私はワナワナと怒りに震えていた。








「誰だ?じじぃを容赦なくぶん殴ったのは」
「!」
「誰だぁ?モスカごとじじぃを真っ二つに焼き切ったのはよぉ!!」
「そ、そんな…」

ザンザス!!
 それ以上口を開くと、私がアンタを殺すわよ

「おー…姫さんがお怒りだぁ」

「ちがう…」
「「「!!」」」







9代目が最後の力を振り絞ってツナに何かを伝えた。
そのあと、私を見ていった。








…」
「ダメ、9代目…喋っちゃダメ…
 今、ディーノが医療班を連れて来ますから…!」
…すまない…」
ダメ…ダメっ!
 9代…パパ…ダメよ、ダメ!!パパ!!










私の手を握る手に力がなくなった。








「なんで…なんでよぉッ!!!














2014/01/12