ピンポーン






部屋のインターホンが鳴った。








La Traviata  23






起きると隣にいるはずのディーノがいなかった。
ふぅー、と深呼吸し、部屋のドアを開けに行った。
廊下にはチェルベッロ機関の女が立っていた。







おはようございます
「…なに?」
「昨夜の戦いには出席されなかったようですから」
「…ヴァリアー側の雨の守護者のせいよ。聞いてない?」
「如何なる理由だろうと貴女様の欠席は許されません」
「…」
「今後、このようなことがあれば沢田綱吉様側のリングを没収させていただきます
!?
「それでは」







そのまま去ろうとするチェルベッロの女を急いで呼び止めた。
私の後ろでバタンとドアが閉まる音がした。








ねぇ!!なんで私なの!?
「…」
「ボンゴレには女なんていくらでも…」
「200年前のボンゴレ創設時の話はご存知ですか?」
「…いいえ」
「記憶の底に眠っているはずです。それを呼び起こすのが私たちの務め…」
はぁ?
「貴女様は…過去と今を繋ぐ大事なお方です。それでは…」
「あ、ちょっと!!









次の呼びかけには答えず、そのまま消えて行った。
溜息を付き、部屋に入ろうとした。
ドアノブに手をかけ、ドアノブを回したが、開かない。








え!?マジ!?







ガチャガチャとやってもオートロックのため、勿論開かない。
何も考えずに出てしまったからか、鍵も携帯も持ち合わせてはいなかった。








「…今日は厄日だ…」










※ ※ ※ ※









キキーッとブレーキ音を鳴らしながら白いスポーツカーが一件の小さな病院の前で止まった。
サングラスを外しながら運転席から出てきたのはだった。
部屋から締め出されたあと、ロビーまで降り、事情を話してスペアキーで開けてもらったのだ。








「ほんと、朝から散々だったわ」







カツカツとヒールを鳴らせて病院に入る。
すでに廃病院になっているからか、患者は誰もいない。
しかし電気が付いた部屋が一つあった。
ガラガラッと開けると、そこにはツナの母親の姿があった。
ベッドにはまだ意識のないランボが眠っている。








「あら、ちゃん。こんにちは」
「こんにちは、ママン。」
「ランボくんに会いに来たの?」
「えぇ、まぁ。」
「ねぇ、あなたにこんなこと聞いても分からないと思うけど…」
「…」
「ツナたち、危ないことしてないわよね?」
「…え?」
「ランボくん、階段から落ちたらしいんだけど…それにしては…」
「ねぇ、ママン」









私はママンの手を握った。
不安だったのか手が震えている。








「ツナたちってとっても強いと思うの。
 私もよくは知らないけど、ディーノも力になってる。心配しないで」
「あら、ディーノくんも絡んでるのね!全く…」
「大丈夫よー!ディーノも強いから」
ちゃんはディーノくんと付き合ってるの?」
「…え?」
「だってディーノくんの話をするとき、とても嬉しそうだから」
「ねぇ、ママン?」
「ん?」
「もし私が…2股とか3股とかかけてる女だったらどうする?」









キョトンとしたママンの目を見て、私は「あはは!」と笑った。









「ホントにしないでね!?もしも、の話だから!」
「…でもちゃんは、そんなことしないでしょ?

「だってディーノくんとお似合いだわ」
「…うん。そんなこと、しない」








私はギュッとママンに抱きついた。








「あら!どうしたの?」
「ママン、あったかいね」
「ふふ!ちゃんも私からみれば、まだまだ子どもね」
「…うん。あとちょっとだけ、こうしてていい?」
「勿論よー!」








暖かいママンのぬくもりはきっと、本当の母親を知らない私にとってとても新鮮なものだったのだと思う。
日が落ちる頃、私は病院を出た。
今日の夜、ディーノに話そうと決意した。
私の記憶のこと、スクアーロのこと、そして、ディーノのことを一番に愛しているということ。





夜の10時50分。
嵐の守護者のフィールドである校舎内に私はやって来た。
ベルフェゴールはスタンバイしているが、獄寺の姿がなかった。







「あ、さん」
「ツナ、隼人は?」
「それが…」
「そう」

「あれぇ?姫、今日は来たんだ♪」
「あんたに『姫』なんて呼ばれたくないわよ、我儘王子
「お前より我儘じゃねーっつの」
はぁ!?あんたに『お前』呼ばわりされたくないわよ!!馬鹿!
「馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだぜぇ?バ・カ・ひ・め♪
はぁ!?

うるせぇ!!!
「「!!」」







私とベルが鼻がひっつきそうなくらい至近距離でいがみ合っていると、後ろからザンザスの怒声が飛んできた。








「黙ってねーとブッころすぞ」
「ご、ごめん…ボス」
「ふん!あんたが部下の面倒ちゃんと見てないからでしょーが!」
あぁ?
なによ

「ザンザス様、様。お静かに願います。
 あの時計の針が11時をさした時点で獄寺隼人を失格とし、ベルフェゴールの不戦勝とします」







11時59分58秒。
誰もが隼人は来ないと思ったそのとき、外で爆発音がし、目の前に隼人がやってきた。








「獄寺隼人、いけます」

「約束の時間に間に合いましたので、勝負への参加を認めます。
 今宵のフィールドは校舎の3階全てです」









戦いに向かう隼人の背中を見ながら、私は声をかけた。








「ねぇ隼人」
「んだよ、
あんたの仲間はここにいる
「…」
「それを忘れちゃ、死ぬわよ」
「ふん!」








ベルは仲間っていうのを知らないから。
勝負に負けても、あんたは精神で勝てる。
仲間を思うヤツのほうが、最後には勝つのよ。


戦闘が終盤に差し掛かったとき、スクアーロと目があった。
数秒、見つめ合って私から目を逸らした。
彼の目からは、ヴァリアー側の勝利を確信が読み取れた。







ドガーン







大きな爆発音と共に一つのモニターが通信を途絶えた。








「お話した通り、勝負開始から15分経過しましたのでハリケーン・タービンの爆破が順次開始されました。
 図書室の推定爆破時刻はおよそ1分後です。
 なお、観覧席には爆破は及びません」







次々とタービンが爆破していく中、隼人とベルはつかみ合いをやめることはなかった。
そして気づいたときには、私は隼人に叫んでいた。








「隼人!!何やってんの!さっさと戻ってきなさい!!」
「オレが負けてみろ!1勝3敗じゃもう後がねぇ!!致命的敗北なんだ!!」
「さっき私が言ったこと、忘れたの!?戻りなさい!!」
「手ぶらで戻れるかよ!!
 これで戻ったら10代目の右腕の名がすたるんだよ!!」
「ふ…「ふざけるな!!」」










私の声はツナの声にかき消された。







「何のために戦ってると思ってるんだよ!!」
「!!」
「またみんなで雪合戦するんだ!
 花火見るんだ!だから戦うんだ!だから強くなるんだ!!
 またみんなで笑いたいのに、君が死んだら意味がないじゃないか!!」








黒焦げになりながらも戻ってきた獄寺を見て、私はまた大きな溜息を付いた。








「(はぁ…こんなに溜息付いてたら寿命縮むわ…)」







それでも口角を上げながら隼人の肩に触れた。







「…あの言葉の意味、分かった?」
「あぁ…」
「あんた、強くなったね」
「…」








「それでは明晩の勝負の発表です」
「明晩の勝負は、雨の守護者の勝負です」












2013/12/30