ピピピピッ
目覚まし時計の音で目が覚めた。
La Traviata 22
結局ディーノは帰って来なかった。
目が腫れていた。
きっと泣きながら寝たから。
今日は学校には行かないでおこうと思った。
気分がとても悪いから。
一杯の水を飲み干し、窓の外を見た。
高層階だから景色は開けていた。
日本の都会は高層ビルが立ち並ぶ。
地上を歩く人たちはいつも、狭い空を見ているのだろう。
「大空は…それでも見守ってくれてるのね」
〜♪
ふと携帯が鳴った。
それはディーノからではなく、スクアーロからだった。
不審に思いながらも、携帯に出る。
「…」
『か?』
「…私だけど。何?」
『ちょっと話せるか?』
「気分悪いんだけど」
『…ホテルのロビーで待ってる』
それだけ言って切れる電話。
ほんと、自分勝手なんだから。と溜息を付くしかなかった。
ジャージから簡単な服に着替えてロビーに下りた。
銀色の長髪は目立つ。
すぐにスクアーロを見つけ、彼の前のソファにドカッと腰を下ろした。
ウエイターにカプチーノを注文し、彼の目を見た。
「…で、何?」
「大丈夫か?」
「何が?」
「身体だぁ。顔色が悪い」
「…別に。あんたに心配される筋合いないし」
「まぁいい。本題に入るが…」
「…」
「今日の決戦、棄権しろ」
「!」
「今日の戦いは雷の守護者だ。
あのランボとかいうガキ、死ぬぞ」
「…そっちはレヴィね。もさいヤツ嫌いなのよね、私」
「まぁそれは否定しねぇが…そっちにとっちゃいい提案じゃねーかぁ?」
少しの沈黙。
その間にカプチーノが運ばれてきた。
真剣な表情の私たちを見て、ウエイターは怯えながら立ち去った。
どれだけ相手を見つめていたのか。
その表情からはなにも読み取ることはできない。
どちらもプロだからか、ポーカーフェイスは基本中の基本だ。
先に口を開いたのは私だった。
フッと鼻で笑い、カプチーノを口に含んだ。
「そんな提案、私が飲むと思う?」
「な!?!!」
「私には決める権限がないのよ」
「!」
「ランボは馬鹿だし、ガキだけど、守護者よ。それだけは忘れないで」
「おい!」
「ボンゴレに、逃げるヤツはいらない」
「!!」
「それだけ。じゃあね、私、調子悪いの」
去ろうとしたが、腕をスクアーロに掴まれた。
力一杯掴まれ、若干顔が歪んだがすぐに真顔に戻した。
冷静に彼の手を離すと、ギロっと彼を睨んだ。
「…なによ」
「プリーモの記憶か」
「!!」
「…知りたかったら付いてこい」
「…そんなんで、私が付いて行くとでも?
馬鹿にするのもいいかげんにして!」
「!」
「あんたに何が分かるっていうのよ!」
「…」
「今日の戦い、行かないって言っといて。あんたのせいだから」
声を荒げて言う私に、彼は唖然としていた。
周囲も一気に静かになり、私たちに注目していた。
私は小さく舌打ちすると、その場から離れた。
部屋に戻り、顔を洗った。
まだ息が荒い。
「…早く…帰ってきてよ、馬鹿ディーノ…」
その夜、私は戦いに行かなかった。
始まる前、チェルベッロが部屋を訪ねに来たが、何も言わずに帰って行った。
電気も付けずにソファの上で膝を抱えていると、ピーっとロックが解除される音が聞こえた。
「おわ、真っ暗…は…いねぇか」
「…いる」
「わ!いるんなら電気付けろよ。ってか、戦いは?」
私はディーノの問には答えず、彼に抱きついた。
血と埃の匂いがする。
それでも私は彼に何も言わなかった。
ディーノは私を抱きしめ、笑った。
「どうしたんだよ、?」
「…」
「俺がいなくて寂しかったのか?はは!そんなわけ…」
「…寂しかった」
「え?」
「いてほしいときにいないんだもん…」
「…」
「抱いて」
「!」
「…私を抱いて」
「…」
「お願いだから…ッ!お願いだから…ディーノしか…考えられないように…」
彼は何も言わずに私にキスをした。
そして何も言わずに抱いてくれた。
彼しか考えたくなかった。
私にはディーノを愛してるし、ディーノしかいない。
それなのに。
なんで…
「なんでよぉ…」
「?」
「なんで…こんなに悲しいの…?」
「…どうした?」
「…何も聞かないで。お願いだがら…」
「…」
「私には…あなたしかいないの…」
2013/12/12