毎朝、病院に行くことが日課になった。









La Traviata  16






その日も朝から9代目のお見舞いに行っていた。
チーンとエレベーターが最上階で止まる。
フロア全体が病室だ。
日当たりの一番良い場所にベッドはあった。
持ってきた花を花瓶に生ける。
周りを掃除していると、9代目が目を開けた。







…また来たのか?」
「9代目!おはようございます」
「こんなに毎日来なくてもいいと…」
「いいんです。私、暇だから」
「…本当か?」
「う…いや、ちょっと…溜まってますけど。
 けど!9代目のほうが大事だし!」
「はっはっはっ!わしはもう元気じゃ。自分のことに専念しなさい」
「…でも…」
「ところで、沢田綱吉くんはどうじゃった?」
「あぁ、ツナですか?彼、全然ボスっぽくないです
ほぉ…?









私は、傍にあったソファに腰掛けると、ツナについて話した。








「ずっと見て来ましたけど、運動音痴だし、勉強出来ないし、喧嘩は嫌い…
 争いごとが嫌いなんです。地位も名誉も、なんにも欲しくないんです。
 そんなボス、、見たことない」
「…」
「でも、とっても暖かい感じがしたんです。
 周りの子たちも、ツナを信頼していたし、彼も友達を信頼してた。とっても良い子でした」
「そうか…それは、良かった」
「あと、私の記憶の人に似てたんです」
「…どういう意味じゃ?」
「顔が、とかじゃなくんですけど。雰囲気っていうんですかね?
 よく分かんないんですけど。懐かしい感じ?
 年下の男の子に、何言ってるんだろ、私」









ちょっと顔が赤くなったのを感じた私はそれを隠そうと急いで立ち上がった。







「今日はもう行きますね!ディーノとランチの約束してるの!」
「ディーノくんは元気か?」
「えぇ!相変わらず、ですけど」
「よろしく言っといてくれ」
はい!









病院を出た瞬間、携帯がなった。
知らない番号で、これは多分、日本の公衆電話…









「はい?」
『ちゃおっス』
「…リボーン?」
『ディーノに聞くよりお前のほうが信ぴょう性高いからな。』
「褒めてくれてありがとう。で、なんの情報が欲しいの?」
『最近、あの監獄から脱獄した奴らはいねーか?』
「…情報早いわね、リボーン。
 この情報、まだ誰も持ってないから高値で売れるはずだったのに」
『いーじゃねーか』
「…主犯は六道骸ってヤツで仲間2人と看守や他の囚人を皆殺しにして脱獄したわ。
 年は確か…ツナたちと同じくらいだったと思う。
 写真もあるから後で送るわね。」
『サンキュ』
「…日本に行ったって聞いてたけどまさか…」
『そのまさかだ』
「ちょっと!大丈夫なの!?」
オレの生徒をなめんなよ

『じゃあ切るぞ』










ブチッと一方的に切られ、携帯をカバンの中に入れた瞬間、
ププッと短いクラクションが聞こえた。
ディーノが来たのだ。










「悪ぃ。遅くなって」
「大丈夫、今来たとこ」
「誰かと電話してたのか?」
「見てたの?」
「遠目だったからあんま見えなかった」
「リボーンから。最近、脱獄したマフィアいないかって」
「…いるのか?」
「もうリボーンに教えちゃったからいいけど。答えだけいうと…イエスね」
「もったいぶるなよ」









運転しながら聞いてくるディーノ。
私は渋々さきほどの話を彼に話した。
絶句するディーノを見て私は溜息を付いた。








「あんたが絶句しても意味ないでしょ」
助けに行けたらなぁ!
「ツナは強いよ」
「…なんだ、心配じゃないのか?」
「心配だったけど。リボーンが大丈夫っていうなら、私は信じる」
「そうか…」
「そうよ」
「じゃ、終わったら旨いもんでも食わせてやろう」
「たーんと、ね」








※ ※ ※ ※








数日後も、私は同じように9代目の病室を訪れていた。
同じように花を生ける。
元気を取り戻しつつある9代目は、起きて読書をしていた。







「また来たのか、
「はい。お花を変えに」
「…この話を知ってるか?」
「『ロメオとジュリエッタ』…?
 勿論。だって9代目が私に初めて買ってくれて本だもの」








ソファに腰掛けながら笑顔で答えた。
私はこの本が好きだった。
愛を貫いた二人を、とても尊敬していたから。








「この話、実話だと思うか?」
まっさかぁ…!ヴェローナはありますけど、実話なんて…」
「勿論、実話じゃぁない。でも私は、それに似た実話を知っているんじゃ…」
「へぇ!どんなお話なんです?」
「今からちょうど200年くらい前の話なんじゃが…」
 







そう言って語りだした9代目は遠い空を見ていた。






イタリアにちょうどマフィアという組織が出来始めた頃。
一人の貴族の少女がいた。
その少女は美しさのあまり、多くの貴族から結婚を迫られていた。
でも彼女は心から愛する人を見つけるまでと、ずっと拒み続けていた。
そんなとき、一人の少年の出会った。
彼は優しい目をしていた。
強い心を持っていた。
一瞬で彼女は彼に心を奪われてしまった。

その彼は、貧しい地域の出身だった。
モノを盗んでは、仲間に配る、そんな生活をしていた。
そんな最中、少女と出会った。
彼女の美しい目に心を惹かれた。
優しい心に触れたかった。
彼もまた、彼に心を奪われてしまった。

その頃、彼は仲間と自警団を組織し始めていた。
仲間を助けるために、こんな貧しい生活から抜け出すために…












2013/11/14