「ふふ、もうすぐバレンタインデー!










La Traviata  10








ホテルの一室でニヤニヤする
毎年、バレンタインデーはディーノが色々サプライズをしてくれる。
去年はの好きな薔薇やダリアを至るところに飾った部屋で食事をした。
その前は、砂糖菓子で出来たジュエリーボックスの中にネックレスが入っていたりした。
イタリア男はマメな性格だともっぱら有名だが、本当にその通りだと思う。
2月14日だけはあのディーノでも仕事を入れたことはない。

自身も、その日はいつも以上にディーノに愛されていると実感出来る日だから、
とても待ち遠しいのだ。







「あと、3日♪」







カレンダーを見ながら鼻歌を歌っていると、急に着信が鳴った。
電話ではなく、メールだった。
宛先はディーノ。


噂をしてれば♪


と上機嫌でメールの受信ボックスを開く。
内容を読んでいくうちに、鼻歌が消え、笑顔が消え、最終的には眉間にシワが寄った。







はぁ!?なんで、14日が仕事なのよ、馬鹿!!!








携帯を勢いよく投げ捨てた。







※ ※ ※ ※








翌日、ムスッとした顔で登校した
廊下で聞こえる黄色い声援にも答える気はなさそうだった。







「あ、おはよう。くん」
「んー」
「…どうしたの?」
「ツナ!聞いてくれ!!
「はい?」
「イタリア男ってのは自分勝手すぎる!」
は?
「イタリアではさ、バレンタインデーは男が恋人に尽くす日なんだよ。
 毎年、何かしらのサプライズをけしかけてくるんだ。」
「へ、へぇ」
「毎年だぜ!?それが今年だけしないってアリか!?
「い、いや…オレ分かんない…」
だーッ!!もういいよ!」
「え、ご、ごめん…(てか、くんがする方なんじゃ…)」








不貞腐れるを横目で見ながら、ツナはそんなことを考えていた。


そんなこんなで迎えたバレンタインデー。
日本では、女子が男子にチョコレートを送ったり、告白したりする日だ。
自身も登校してから帰る前に何十個というチョコレートを貰っていた。
勿論、笑顔で礼は言うが、内心、全く嬉しくなかった。







「(こんなチョコばっかりって…ニキビ出来るっつの!)」







はぁ〜っと大きな溜息をついたその時、ズガン!という銃声とともに、
ツナが裸で教室から出て行くのが見えた。







「リボーンか?」
「ちゃおっス」
「またなんかやったの?」
「まぁな。ミッションだ」
「へぇ」
「お前は、何も予定ないのか?」
「こんなバレンタインデー、初めてだよ。代わりにリボーン、何かサプライズでもしてくれるか?」
「そんなに暇だったら今からウチ来いよ。京子たちがチョコ作るらしーぞ」
「もうチョコは十分!ま、帰ってエステでも行くか」
「お前も大変だな」
もう肌カッサカサだっつの!








Chao!といいながら教室から出ていく
声は元気だが、背中から寂しさがにじみ出ていた。



の姿に着替え、街に繰り出した。
繁華街はどこを見てもカップルばかりで。
私は大きな大きな溜息を付いた。

そこでふと、ジュエリーショップが目に入り、フラッと入った。
「いらっしゃいませ、お客様」という店員の声と共に、ペアリングを見るカップルが目に入った。









『えー、どれにしよう』
『好きなの選びなよ』
『迷っちゃう〜!』








ピキッと血管が浮くのを感じた私は、そのまま何も見ずに帰路についた。

時間は午後7時。
今から一人でご飯を食べて、ドラマ見て、お風呂入って、寝るだけ。
それを思うと、今日何度目かも分からない溜息を付いた。









ガチャッ









鍵を開けて部屋のドアを開く。
電気を付けて…

と思ってスイッチをカチカチしても電気が付かない。









「あれ?おかしいな…電球切れたのかな?」








リビングルームにインテリア用のロウソクがあったことを思い出した私は、
手探りながらもリビングに行き、飾ってあったロウソクに火をつけた。

すると、ロウソクの光に照らされた薔薇の花が見えた。
「あれ?薔薇なんて飾ってたっけ?」
と思ったその瞬間。







わっ!!?






誰かに目隠しをされた。
とっさに回し蹴りをしようとした瞬間、耳元で一番聞きたい男の声が聞こえた。









「!?」
「そのまま後ろ下がれ」
「…ディーノ?」
「あぁ。ほら、座って。目ェ、閉じてろよ?」








カチッいう音と共に辺りが明るくなるのを感じたが、私は目を閉じたまま待っていた。








「開けていいぞ」
「…眩し…わぁ!!








目の前に見えたのは薔薇の花束。
大きすぎてディーノの顔が見えないくらいだった。
それを避けると、部屋の至るところに薔薇が飾ってあった。
ディーノはスーツを来て、私の前に跪いていた。








「お前さ、仕事ってどこだかも聞かないで…」
「ぅ…」
「部屋に行ってもいないし、まぁそれのほうが好都合だったんだけど」
「…」
「まだ怒ってんのか?」
「怒っては…ないけど…」
「これ。絶対外すなよ」







いつの間にか薬指に付けられていたペアリング。
今まで見たジュエリーの中でも一番綺麗だと、心から思った。








ディーノ!!
「わ!ほんと我儘だな、お前は」
「…それ知ってて付き合ってるんでしょ?」
「まぁな」
「だって…今日くらい…」
「今日くらい、なんだよ?」
…何回でも愛してるって…言ってほしいもん








そんなセリフを言ったあと、急に恥ずかしくなり、花束で顔を隠した。
しかし花束をすぐにディーノに取られ、キスをされた。
軽いキスから深いモノへと変わっていくそれを、私は受け止めた。


やっぱり、一年に一回はこんな日があってもいいと思う。














2013/11/07