彼女はそのままソファに腰を下ろすと、テレビを付けた。










La Traviata  03












「はぁ…9代目の頼みとはいえ、中学生とは…疲れる。
 しかも宿題って…何年ぶりかしら?」






そう言いながら彼女は缶ビール片手にパラパラと数学の教科書を開く。
そしてバンッと机の上に放り投げた。
中卒、正確に言えば高校中退に彼女にとって、「宿題」とは7年ぶりに聞く響きだった。







「ぜんっぜん分からん。
 私、数学苦手なのよねぇ」







テレビでは夕方のワイドショーが始まっていた。
そこで武器の密輸入のニュースが報道されていないことを確認する。
勿論、そんなニュースはない。
ボンゴレの運び屋は一流だから、そんなヘマはしない。
明日には愛用の銃がここに届くだろう。







「沢田綱吉、か…」







彼女は携帯に保存されていた彼の写真を見た。
記憶の男ととてもよく似ていた。

すると、プルルルルッと持っていた携帯が鳴った。
彼女はビックリしてそれを取り落としそうになったが、間一髪で受け止めた。
画面にはある男の名前が出ていた。
その名前を見て顔を歪めると、悪意を込めて電話を切った。

私の携帯に掛けてくるなんて、いい度胸じゃないの

そう呟いてから携帯の電源を切った。






翌日、はまた男装をして部屋を出た。
遅刻ギリギリで学校の門をくぐる。
それと同時にツナも走ってやってきた。






「お、ツナじゃーん」
くん!!
「走って来るとか朝から元気だねー」
「いやいや!遅刻だから!!







そう必死な顔でいうツナ。
その後ろにリボーンが引っ付いてきていた。







「お前は朝から楽してんなー」
「当たり前だろ。もさっさと教室行けよ」
「はいよー」








が教室のドアを開けると、ちょうど出席を取っている最中だった。







「おい、、遅刻だぞ」
「いやー、でも8時には家出たんスけど」
「それでも間に合ってなかったら意味がないだろ」
「以後気を付けまーす」
「さっさと座らんか」








席に着くとツナが後ろを向いて話しかけて来た。








くんの苗字、なんだね」
「まーね。一応
い、いちお!?
「こら、沢田!静かにせんか!」
「ほら、怒られっから前向け」







午前の授業が何事もなく終わり、午後になった。
眠気が容赦なく襲ってくる中、はうとうとと舟をこいでいた。
すると、ズボンのポケットの中に入れていたケータイが急に鳴った。







〜♪






ぅわぉっ!?
「こら!誰だ、学校に携帯持ってきてる奴!?か!?」
「い、いや。これ、俺の腹の音っす!
嘘付けーッ!
「(平気で嘘付いてるよ、この人!)」
「ちょっと腹痛なんで保健室行って来ます!!」
コラーッ!!






は走って教室を飛び出した。
廊下で開いた携帯の画面には

Dino

と出ていた。
ゴホンッと咳をし、「あー」と発声練習をする。
さっきまでの少年の声と違い、綺麗な女性の声が出てきた。
そして渋々、通話ボタンを押した。
、もといは流暢な日本語ではなく、
母国のイタリア語で話し始めた。








「…なに?」
『はぁ!やっと繋がった!どこにいるんだ!?
「…そんな口の聞き方よく出来るわね。どこぞのボス様は格が違うわぁ
『今度のはほんと俺が悪かった!』
「それ3回目。そう思ってんなら探してみなさいよ」








そう言って彼女は力いっぱい電源ボタンを押した。
特殊な仕様の携帯のため、逆探知されることはない。

フーッと息を吐くと、またゴホンッと咳をした。
「あー、あー」と今度はまた少年の声に戻る。








「声変えんの、中々体力いるんだよなぁ…
 ってか、ほんっと気分悪いわぁ…」







首をボキボキ鳴らしながら教室に戻る。








「こら!!保健室に行ってないじゃないか!」
「あー。行くまでに治ったので戻ってきました」
「じゃあ立ってるついでにこの日本語を英語に…」
「Could I have another cup of coffee, please.(コーヒーのおかわりをください)」
「おぉ…完璧…」
「ちなみに
 Vorrei avere un altro caffe, per favore.がイタリア語。
 先生、俺に語学の質問しても意味ねーよ」







黒板に文字を書き終わるとユーロはドカッと自分の席に着いた。
一番前の一番右端。
左隣には同じく態度の悪い獄寺が座っている。








「獄寺もあんくらい分かんだろ」
「ったりめーだ、馬鹿」
「かーっ!馬鹿とは心外だねぇ。俺、これでもIQ170オーバーだっつの
ぬっ…!
「わっかりやすいねぇ…」
「ってんめ…」







その瞬間、先生がこっちを睨んだので、獄寺は態度が悪いながらも座り直した。
くっくっく、と笑いながらもは英語の教科書に目をやった。
簡単すぎるそれは、にとってなんの暇つぶしにもならず、
数分後には夢の世界へと旅立っていた。








※ ※ ※ ※







ハッと起きたときにはすでに放課後で、みんな帰ったあとだった。








「あーぁ。みんな起こしてくれてもよかったのに」








ペラッ










机の上にあったのは小さなメモ用紙。
そこには

校舎裏で待つ

の文字。
この字はきっと…








「はぁ…ホント、ガキって馬鹿…」







そのメモをグシャッと丸め、ゴミ箱に投げ捨てた。

















2013/10/22