黒の教団というのはたいそう退屈なところだ。
そこから任務に行って帰ってきて、寝て。
ご飯食べてまた任務に行く。
鍛錬場はあっても、他のエクソシストがいない限り組手もできない。
ファインダー相手なんて相手がすぐにヘバッて終わる。









「おい、…」
「ん…?あ、ユウじゃん。帰ってたんだ」
「メシ行こうぜ」
「いいよ。私も今行こうと思ってたところ」









ユウと私はいつも一緒にいる。
まぁ、同じ任務に行くことはすくないが、ホームにいるときはたいてい、ね。
部屋も隣同士だし。
何かと知ってるし。
そこでいいこと思いついたんだ。
退屈しのぎ、ってだけだけど。








「ねぇ、明日、街に行かない?」
「は?何言ってんだ」
「どーせ暇でしょ?」
「…断る」
「なんで!?せっかくのデートのお誘いを…」
「俺は忙しいんだ」









そういって蕎麦を啜るユウ。
私はむくれて、ボソッと言った。









「じゃあラビと行こーっと」
「なんであいつと行くんだよ」
「だってユウが来ないっていうから。ちょっと買い物行くだけよ。ね?」
「…2時間だけな」
「やったー!」









しかし、その日の夜、ある事件が起こった。
私が前の任務の報告書を出しに指令室に向かっていると、
深夜にも関わらず科学班ラボの明かりがついていた。
まぁ、科学班はいつも徹夜してるからそんなんいめずらしいことじゃないんだけど。
そこで、リーバー班長とジョニー、タップらがなにやら真剣な顔で
小さな瓶を見つめていた。








「これ、どーするよ…」
「そりゃ破棄でしょ」
「でも効果わからんぞ?」
「どーせ室長が遊びで作ったんだろ?」

「何それー?」

「「「わー!!!?」」」


「そんなに驚かなくていいじゃない」
「な、なんでこんな時間に?」
「コムイに報告書出すの忘れてたの。で、これ、何?」









私は興味深々で小瓶を持ち上げた。
すると三人は必死で私から小瓶を奪おうとした。
そんな彼らが面白くて、私は2階本棚の手すりにトンッと飛び乗った。








「またなんか作ったのー?」
「いや、!早まるな!」
「早くそれをこっちに渡して!」
「えー…どうしよっかなぁ…」







と小瓶をプラプラさせているうちに、
スルッと手から離れて下へ落下させてしまった。







「やばっ…!」
「「「あー!!」」」








私が地面に着地すると同時に小瓶は割れ、
私はグリーンの煙に包まれてしまった。







「キャー!!!」
「「「ー!!!!???」」」







もくもくの煙から必死に出てきた。
私は霞む向こう側ではリーバー・ジョニー・タップは
ムンクの叫びのような顔でこっちを見てきた。








「ど、どうしたの?」
…あの…身体…」
「身体…?」







ふと自分の身体を見てみると、あるはずの胸のふくらみがない。
手も若干ゴツゴツしているように見えた。
そう、私の身体は男になっていたのだ。






キャー!!!!!!










***









早朝、私は誰にも分からないようにダボダボのセーターを羽織って食堂に行った。
幸い、髪の毛の長さや顔にはあまり変化がなかった。







「あら、。早いのね」
「あ、り、リナリー。おはよう」
「あら?、今日ちょっと…声…」
「ちょ、ちょっと風邪気味で…」
「え!?それは大変!医療班のところに…」
「大丈夫大丈夫!寝てたら治る!」








1トーンくらい低い声から頑張って高い声を出すように気を付ける。
すると、リーバー班長が眠そうな顔でモーニングセットを頼んでいるのが見えた。
リナリーにさよならを言うと、私は即効でリーバー班長の隣に座った。







「ちょっと!どうやったら元に戻るのよ、これ!」
「あ、あぁ……声まで男だな…」
おい
「す、すまんすまん!おそらく時間の問題だろう…24時間くらいしたら元に戻る」
「24時間!?今日、ユウと街に行く予定だったのに」
「…そのままでいいじゃねーか」
「は?」
「い、いや。、綺麗な顔してるし、そのままでも大丈夫だって…意味…」






ゴゴゴーッと私の後ろで炎が揺らめくのが見えたのか、
リーバー班長はそのまま前を見て、クロワッサンをかじった。

すると食堂にユウが入ってきた。
いつものように蕎麦を注文し、空いている席に座る。
少し顔をあげた瞬間、ユウと私は目があった。






「おい、…」
「ご、ごめん、ユウ…今日やっぱ止めにしよう」
「は?」
「ちょっと喉の調子悪くてさ、風邪引いたかも」






ユウの鋭い目が私の身体に刺さる。
ヒィッと内心声を挙げながらユウに笑いかけたが、その瞬間、
ユウの手は私の胸を抑えた。
周りは「えぇーーっ!?」という声と共に赤面する男が何人も現れ、
食堂を出ようとしていたリナリーはたちまち私たちのところへ戻ってきた。









「か、神田!何やってんの!?///」
「おい…いつのまにお前、男になった?」
「は?」
「い、いやぁ…すんません…」
おい
「あ、あの…昨日の夜、ラボでさ、リーバー班長たちと遊んでてそれで…
 変な薬浴びちゃって…男になりました」
「はっ…くだらねぇ」






そういってユウは蕎麦に手も触れずに食堂から出て行ってしまった。






「ちょ、ユウ…!!」
「あ、!?」






私はリナリーの静止を振り切り、そのままユウの後を追った。

ユウには部屋の前で追いついた。






「ねぇ、ユウ…ごめんってば…リーバー班長に聞いたら一日経てば戻るって…」
「部屋で話せ」






ユウは私の部屋を顎で指した。
開けろ、という意味だ。

部屋の中で、ユウはドカッとベッドに腰掛けた。
いつもなら私のベッドに勝手に座るなーって怒るのだが、今日はそんな気分じゃない。







「脱げ」
「…は?」
「ほんとに男なのか、脱げば分かる」







私はしぶしぶ上のシャツを脱いだ。
勿論、胸のふくらみなんかない。






「はっ…あいつらも妙なモン作りやがるぜ」
「ユウ?」
「お前も、変なモンで遊ぶな」
「うん…肝に銘じときます」
「でも、ま…お前、男でもやっていけんじゃね?」
「…はぁ!?」








私はユウのみぞおちにパンチを食わらせ、そのままシャワー室へ行った。
ほんと、何考えてんのか、分かったもんじゃない!










***










後日、教団中にとあるポスターが貼られていた。
そのときにはもう私の身体は女に戻っていたわけだが。
それを見た私は怒り心頭し、科学班ラボを半壊させたのは言うまでもない。





その内容は、ユウと男のときの私が写っていて、
タイトルは…










綺麗なお兄さん、

好きですか?







2012/08/21






後日、この写真を撮ってポスターを貼りまくったコムイは
逆さ吊りの刑にされたとか。