ドイツ・ザールラント州。
私とユウはそこで久しぶりのメンツと再会した。








twilight


11 再会、そして別れ








私たちがザールラント州ザールブリュッケン駅を降りると、そこには見覚えのある
二人組が私たちを待ち構えていた。








「あれ、ラビとブックマンじゃない?」
「あ?」
「ほら、あの頭…」







私はブックマンの特殊な髪の毛を指差した。







「久しぶりじゃのぉ、神田に嬢」
「お久しぶりです、ブックマン」
「ファインダーはおらんのか」
「俺たちだけの単独任務だったんです」
「うおー。ユウもじじいには敬語さねー」







次の瞬間、ユウは六幻をラビののど元に当てていた。






俺のファーストネームを言うな
「は、はい…」







私はそんな二人を無視して再び、ブックマンに視線を向けた。








「お二人はこれからどこへ?」
嬢、おぬしと共に行動する。アレン・ウォーカーの元への」
「アレン?」
「モヤシ?」
「もやし…ってだれ?
「ユウはね、アレン・ウォーカーのことをモヤシっていうのよ。なんでか知らないけど」
「へぇ〜」
「神田はここで乗り換えてオーストリアへ向かってくれ、とのことじゃ。そこでマリたちがおる」
「…」







私たちはそこで口をつぐんだ。
最初に言われていた任務形態となにか違うと気づいたからだった。

そして場所は駅近くの喫茶店へと移した。
私たち4人が黒いコートを着て、少量でも殺気を出していることで、
一般人に見られ始めたからだった。

そこで、ブックマンから任務変更とその理由について聞かされた。








「わしも室長殿から通信で聞いたゆえ、詳しいことは知らんが…
 先日、元帥の一人が殺されたそうだ」
「「!?」」
「その元帥はケビン・イエーガー元帥。」
…あのイエーガー元帥が…
「…」
「それゆえ、エクソシストを他の4人の元帥の元へ集結させることとなった。」







イエーガー元帥が殺されたことでショックを受けていたが、
その次の言葉で私の顔はだんだん血の気が引いていくのを感じた。







「もしかして…」
「あぁ、そうじゃ、嬢。それぞれの弟子が今回の元帥護衛に付く」
…クロス…
「そうじゃ。嬢はクロス元帥、神田はティエドール元帥に付くこととなった」








私は項垂れた。
隣のユウはいかにも不機嫌そうな顔で「チッ」と舌打ちをした。







「あら?お二人さん、どうしたんさ?急に…」
「クロス元帥とか…会いたくない…」
「チッ…」

嬢、わしらは明日の朝、ここを発つ。
 先ほど調べたらオーストリア行の列車も明日の朝出発だそうだ、神田」
「…どうも」
「今日はこの町で身体を休めよ。二人は任務続きだったじゃろう」






そういって、ブックマンはあらかじめ取ってあった宿へと案内してくれた。
ブックマンとラビで一室、私とユウで一室だ。
ラビは私とユウが同じ部屋なのに少し冷やかしに来て、またユウに六幻を向けられていた。

私たちが荷物を整理してようやく一息入れようと思っていた矢先、
ドアをノックする音が聞こえた。
ユウは無視なので、仕方なく私がドアを開ける。
少しドアを開けてみると、そこには見慣れたバンダナと赤毛が見えた。







「なんだ、ラビか」
「えーなになに?二人でイチャイチャしてたとか?」
うっさい、黙れ
「ご、ごめんごめん!!閉めないで!!」
「何の用?」
「久しぶりにメシ行こうぜ、三人で!」






その誘いを奥で聞いてたのか、ユウがすっと立ち上がった。
私もそれに乗じて、コートを来た。

私たち三人はドイツの町を歩いた。
勿論コートも、武器も持っている。
それ以外は普通の若者だった。
武器も持っていなければ、コートも着ていない。
そうしたら普通の若者のように酒場に言って大きな声で笑い合えたのかもしれない。

私たちは小さなパブに入った。
まだ時間が早いためか、客は少ない。






「マスター!ビール3つ、お願いさー」
「あいよー!」
「え、飲むの!?」
「まぁまぁ。最後くらいいいんじゃね?」
「最後、だと?」







すると、若い女の店員がジョッキを運んできた。
その女の子はユウを見ると、顔を赤らめた。
私はちょっとムッとして、自分のジョッキを引き寄せた。

ラビが適当に料理を頼み、店員はそれを厨房へと伝えに行った。
それから、ラビがジョッキを少しだけ上げた。








「じゃあ、久しぶりの再会と、今後の健闘を祈って、かんぱいさ〜」






ゴンッ






と3つのジョッキがぶつかる鈍い音がした。
私たちは少し飲んでから、ジョッキを机に戻した。







「おい、ラビ。最後ってどういう意味だ?」
「それ、私も思ってた」
「あぁ…それね。
 おめーら強えーからそうそう死なねーと思うけどさ、今度のは長い戦いになる」
「「…」」
「オレの予想だけどさ、ノア一族ってのが動き出したんだってさ。じじいがコムイと話してるの聞いた」
「ノア?」
「リナリーとアレンの負傷もノアにやられたのが大きい。」
「ノアか…はっ!くだらねぇ」







そういってユウはまたジョッキの中の酒を口にした。







「だからこれが終わるまで、3人で飲めねーなーと思って、最後って言ったさ」







へらへら〜っと笑うラビ。
そこで先ほどの店員が料理を運んできた。
ラビの好きそうなものが並ぶ。







「ま、食うさ〜」






食事を終え、私たちは自室に戻った。
ラビはほろ酔いだったが、私たちはジョッキ一杯くらいじゃ素面だ。
幸運にも、アクマにも遭遇しなかった。
私は寝る支度をしながら、ユウを見た。
ユウはすでにベッドに横になって本を読んでいる。







「ねぇ、ユウ」
「…なんだ」
「戦う、って何かな?」
「…」
「私はなんで戦うのかな?」
「…仕事だから、だろ」
「…」
「俺たちは戦うために存在する。戦わなかったら存在してないのと同じだ」
「じゃあ、この戦争が終われば、私たちは消える?」
「…そうだな。」
「そっか」
「…消えたくないのか?」
「え?」
「この戦いが終われば、この息苦しい世界から解放される」







そう、この世界はとても息苦しい。
私たちは戦うために作られた。
私たちの存在意義は戦うこと。

ラビは次期・ブックマン。
ラビの存在意義は記録すること。
記録が終われば、次のログ地へ消える。


私たちと同じように。
だから、私たちは息が合うのかもしれない。








***







翌日、私たちは駅にいた。





「夜はどうだったさ?」
「さぁな」
「はっ!ユウがはぐらかした!と何したさぁ!?」
「おい、引っ付くな!!気持ち悪い!!」
「教えろ〜!!」
「なんでもいいだろーが!」
「良くないさ〜!」
「なんでだよ!お前には関係ねぇだろ!!」






取っ組み合いをする二人はほっといて私とブックマンは駅の時刻表を見ていた。





「もう出ますね」
「そうじゃな。ラビ、行くぞ」

「へ〜い…」





私は、コートについた埃を払うユウの前に立った。






「じゃあね。ユウ」
「…あぁ」
「私がいないところで死んだら殺すから」
「はっ!死なねーよ。お前こそ、俺がいないところで死ぬなよ」
「もちろん。私は強いよ」






私はちらっとラビたちの方を見た。
ちょうど彼らはドイツの地図とにらめっこしてして私たちのほうは見ていない。
そこで私はユウの唇にキスをした。
触れるだけの、短いキスだった。







「またね、ユウ…」
「あぁ」
「いってきます」
「いってくる」








私たちはほぼ同時に、言った。
そして、ユウは私に背を向けて歩き出した。














2012/08/22