AKUMA…
それはこの世にあってはならないもの。
でもそれは、人が死ぬという現実を覆さない限り減ることはないもの。







twilight


01 白夜








英国・ロンドン。
黒いコートを頭からすっぽりかぶった女性が夜の街を歩いていた。
霧がかかっているせいか、街灯が少ないせいか、それともコートのせいか、
女性の顔は一切見えなかった。

そんな彼女の前をふらふらと歩く酔っ払いがいた。
汚れきったコートに汚いズボンを履いて、
行く当てもなく歩いているように見えた。
男はふらふらと歩きながらもしっかりとした目的地があるようだった。
テムズ川沿いからウェストミンスター橋を渡る。

ふらふらと。

酔っ払いを追っていた女性は距離を少し空けて橋を渡った。
男はそのまま国会議事堂へと入っていった。
ロンドンを象徴するその大きなクロック・タワーはもう少しで深夜12時を指そうとしていた。


コートの女性は舌打ちした。
建物内に入るとは思っていなかったからだ。
「アレ」にそんな思考能力が備わっているとも思っていなかった。
だが、入るしかない。
暗い建物内には深夜だからか、警備員の一人もいなかった。
女は足音のする方向へと自らの足を進めた。
少しすると明かりのある部屋が見えた。
中を除くと、あの酔っ払い男がいた。







「俺ノ愛シイ人…」







男と同時に女の目的物も見つけた。
明かりに照らされた大きなルビー。
血のように輝くそれは見ているだけで引き込まれてしまいそうな何かを感じる。

「あれだ…」

女はいつの間にかフードをとっていた。
腰まである真っ直ぐな髪は、少しの風でサラサラと靡く。
その手には一つの扇。



そしてその時は一瞬だった。
次の瞬間、女は男の隣にいた。
男は動かなかった。
額にはペンタクルが浮き出てくる。







「愛シイ人…」
「そうね。私がちゃんと届けてあげるから」








そして男は爆発した。
ふつうの人間は死ぬときに爆発なんかしない。
爆発したのは男が人間ではなかったから。

爆風とともに全てが消えてしまった。
残ったのは大きなルビーだけ。
その男の「愛しい人」とは誰だったのか、
それを女が知ることは決してない。







「さて。ビタ、行こうか」








女性のコートの袖から小さな黒いゴーレムが出てくる。
彼女はルビーをバッグに入れ、建物から出た。

女は建物から出て、伸びをした。







「あー、疲れた。帰って早く寝よ…」








ビタ、と呼ばれたシルバーのゴーレムを横に飛ばし、
行きと同じようにウェストミンスター橋を渡る。
そして彼女は夜のロンドンへ消えていった。







2012/08/20