うりゃーッ!!!





    私は今日も竹刀を振る。








    侍女人






    !『うりゃー!』じゃなくて、『メーンッ!』や!







    金髪サラサラおかっぱの男が怒鳴る。
    そんな男を私はキッと睨んだ。





    「じゃあ真子が一回やってみてよ!!」
    「よっしゃ、行くで!おりゃーっ!!
    「一緒じゃん!!」







    最近、この空地でよく見る金髪サラサラおかっぱ男の名前は、平子真子。
    向こうから声をかけてきて、最初はナンパか何かだと思った。
    でも、よくよく話を聞いていると、私の持っていた竹刀が気になったようだ。









    「剣道部か?」
    「違う、授業の一環」
    「それだけで竹刀買わされるんか?」
    「違う、うちのお父さん、剣道の師範なの。だから持ってるだけ」
    「へぇ。じゃあオマエ、剣道上手いんか?」
    「…やったことない」
    「は?」
    「女の子がやるもんじゃない、ってお父さんが。だからやったことない」










    私は竹刀をギュッと握った。



    だから、学校で男子にバカにされた




    なんて、死んでも言えなかった。








    「ほんで、クラスメイトの男にバカにされたんか?
     『お前の家、剣道場やのに剣道できへんのか』って」
    「なっ!」
    「図星か。ほんであれか、一人で練習しよ思てここ来たんか?」
    「…」
    「ほな、俺が教えたるわ!」
    「は?」
    「俺な、こう見えてめっちゃ上手いんや、剣術
    「嘘だ」
    「ほんまやっちゅうねん!俺は、平子真子。オマエは?」
    …」
    か!竹刀、貸してみぃ!」









    その日から、変なおかっぱ男と剣道の練習が始まった。

    真子は口だけでなく、やはり上手かった。
    動きに無駄がなかった。
    もしこれが竹でできた竹刀でなく、真剣だったら、きっと綺麗に切れるだろう、そんな剣裁きだった。










    「ねぇ、真子」








    そんな奇妙な関係が一か月ほど続いたある日、私は真子にとある質問をした。









    「なんや、

    「真子は、誰に剣道教わったの?」
    「…忘れた」
    「…は?」
    「めーちゃくちゃ前の話やからなぁ、忘れてもたわ」
    「なにそれ、せいぜい10年くらい前でしょ」
    それの十倍くらい前かもな
    「はぁ?そんなだと百年も前じゃん。冗談はやめてよ」











    その時は笑い飛ばした。
    でももしかしたら、

    本当にこの男は百年くらい生きてるんじゃないか

    たまに、そんな雰囲気を醸し出していた。





    そして、今日も練習が終わって、私は公園を出た。
    真子はいつもどこへ帰ってるのか分からない。
    家を教えてほしい、と言っても絶対に教えてくれない。
    一度、後を付けたことがあるが、いつも途中で見失ってしまう。

    やはり、どこか相容れない人物だった。









    「ねぇ、真子!今度の土曜日…!」
    、もう練習はえぇやろ」
    「…え?」
    「もう剣道の授業もとっくの前に終わってるやろ」
    「…」
    「ほなな」
    「ちょ、真子!!










    秋も深まった頃だった。
    いきなりそんなことを言われたのは。
    真子と出会ってからすでに3か月が経とうとしていた。









    「なんでイキナリ…」
    「もうえぇやろって。オマエもほら、勉強せなあかんやろ」
    「…バカ!!」
    「バカでもアホでもえぇ。俺はもうオマエとは…いたっ!?









    私は、竹刀で真子の頭を力いっぱい叩いた。







    「ったぁ…、おまっ…!」
    「勝負、してよ」
    「…はぁ?」
    「私が負けたらあんたの好き勝手したらいい。
     もし私が勝ったら…ずっとそばにいてもらうから…!
    「…」










    真子は、無言で竹刀を取った。
    真剣勝負。
    一瞬で終わった。
    私はしりもちを付き、真子の竹刀の先は私の鼻を掠めるくらい近くて。
    竹なのに、真剣の先を突き付けられてるようで。

    私は悔しくて悔しくて。
    その場に倒れこんで、声を出さずに泣いた。









    「…ほなな」
    「っく…ひっ…く…」
    「…」
    「うぅ…」
    …お前は強い女や。俺がおらんでもやっていける」
    「…うっ…むり…だよ…」
    「こんなに剣術上手い人間、ほかにはおらん。
     俺がお前に教えたんは『剣道』ちゃう、『剣術』や。」
    「…」
    「お前は知らんやろうけど、昔は女侍もおったんやで









    真子はそういうと、ニヤリと笑い、私の頭を無造作に撫でた。









    21世紀の女侍、えぇやないか!






    サムライウーマン







    次会ったときは、絶対勝つ!!
    なってやろうじゃないの、女侍!!








    2016/11/04