今年もまた悲しい季節がやってきた。










サクラ









四月の初め、ここ尸魂界の桜の木も見頃を迎えていた。
は一人、桜の下に立っていた。いつもこの時期になるとおもむろに桜の下へ向かうのだ。その理由を知る者は少なく、大抵の死神は日ごろのストレス発散だと決め込んでいた。 そんな中、ふらふらと酒の瓶を持った九番隊隊長の京楽がやってきた。









ちゃーん。一人でお花見なんて、寂しいでしょ?」
「…京楽…」
「僕が相手してあげるよ」
「そんなことしたら私が七緒に怒られるからな。遠慮するよ」
「…あー…七緒ちゃん、怖いもんなぁ」
「おぬしは尻に敷かれるタイプだな」
「…ところで、また彼のことかい?」










風が吹いた。桜の花びらが無数に散り、が花びらの影に隠れるほどだった。 数分間、彼女が口を開こうとせず、じっと眼下に見える尸魂界の街並を見下ろしていた。 しばらくして、が重い口を開いた。









「…毎年、来てたのだ…」
「…」
「あやつ、桜が好きでのぉ、いつも見に来ていたのだ。
 儚く美しい桜、すぐに散ってしまうが、全力で生きている、それが美しい、といつも言っておった」
ちゃん…もう…忘れようよ」
「忘れたいのは山々なんだが…桜を見る度に思い出すのだよ、京楽…」








記憶というものは、忘れたいものに限っていつまでも覚えておるものじゃ…とは笑いながら言った。 けれども顔はちっとも笑っていない。京楽はそのまま口をつぐんでいた。







「…京楽よ…」
「…何だい?ちゃん…」
「私は…これほどまでに執着の強い女だったのか…」
「…」
「自分でも嫌になる、この性格が…早く忘れたいのに、忘れられぬ…」
「もし…」
「!」
「もしもだよ?もし、僕の一番大切な人が今目の前から消えてしまったら…僕は僕でなくなると思うよ」
「…」
「でもちゃんはあれから百年、ずっと自分を保ってる。それはすごいことなんじゃないかな?」
「…保ってなどおらぬ」
「え?」
「毎晩毎晩、気が狂いそうになる。隣にあやつの視線を感じる時がある。今でも…」
「…」
「これほどまでに愛しているのに…」








は手を差し出した。
桜の花びらが一枚、静かに乗った。







…もう真子はいない










今年もまた、悲しい季節がやってきた。
桜はまた、散ってしまった。それでも私は彼の思い出を拭い切れなかった。
早く忘れて楽になりたいのに、彼は私を解放してくれない。
そしてまた、来年の春。
私はここで彼への想いと共に涙を流す。















2011/09/20