「あの…」
「あ?」
「…平子…真子さん…ですよね?」
「…何で知ってんねん?俺の名前…」
「ポイントカードに…」
「…ぁ…」
「あの…私、三浦といいます!その…」
「……」
「あ、はい!あの、よろしければ…一緒にお茶でも…」
「すまんのぉ…俺はそんなん興味ないんや」






なんや、最近の現世の女の子は知らん男にも声かけるんかいな。
そないなもんに引っかかる俺やないで。
ま、昔やったらひょいひょい付いて行っとったかもしらんけどなァ。

現世での生活も飽きてきたところやった。
何も動かれへん。
ただ普通の人間と同じように生活して、時が流れていく。
周りの人間が、なんぼほど死んでいったのかさえも覚えてない。

俺は死ぬことはない。
戦いで死なん限りな。
暇なもんや。
ただメシ食って、寝て、ひよ里の喧嘩相手して、また寝る。
これのどこがおもろいねん。
ナンパ女に付いて行く?
どこがえぇねん。
むしろ、そんなんやった瞬間、俺は自分で腹斬って死ぬわ、ボケ。

でも今回のは一瞬、止まってしもた。
同じやったんや。

名前が

アッチにおいてきた大事な女の名前と。
こんな偶然あるか?
あいつの名前、前世でそない流行ってる名前やったんか?
一瞬ワケ分からんようなった。
俺は今もなんであいつに固執してるんかが。
百年も経ったんや。
もう忘れて他の男作ってるに決まってるやないか。
生と死の隣合わせの仕事してて、あいつは俺が先に死ぬかもせぇへんことを覚悟してたはずや。
それやのに、俺がまだあいつのこと想ってても意味ないやんけ。




「ってか…俺にパシリさせんなや、ひよ里のやつ」




そうや、俺がジュースさえ買いに行かんかったらこんな思いせんでよかったんや。
あいつもきっと俺のことは忘れてる。
もうあいつには一生会われへん。
でも俺はあいつのことを覚えてる。



顔も、温もりも、声も、匂いも、髪も、身長も、抱き心地も…

全部

覚えてるんや



それをどう忘れろっちゅーねん。
ほんま、ボケとるわ、世の中全部が。
世の中にボケボケゆうとる自分も情けなぁなってくるわ、ほんまに。
百年経っても、俺がどれだけあいつのこと大事にしとったかを思い知らされるわ。







「でも…もう終いにしたほうがえぇかもなぁ……」







この百年、俺はずっとお前のことだけを考えとった。
周りなんか見てへんかった。
もういっぺんだけでもいい…
お前に会えるんやったらどんな手段でも取ろうと思ってた。
でももう、そんな出口のない闇から抜けださなあかんのかもなぁ…
そんな時期が来たんかもしれん。
百年ぶりの夜明けに…






alba