「あ、あの…隊長!!」
「…?おぬしは…」
「ぼ、僕は五番隊第9席の二階堂晋司と申します!!」
「晋司?」
「あ、はい!!あの…それで…もしよろしければ一緒にお食事にでも…」
「…」
「…あの、隊長?」
「あ、あぁ…すまぬが、他所を当たってもらえぬか。私はそのような…」





何度めだろうか。
このような誘いを受けるのは。
全ての誘いは私の過去を知らぬ、若い隊士たちだ。
知る筈もなかろう。
この戦いを生活の生業としている死神が何百年も生き続けるなど、相当の実力の持ち主か、あるいはただ単に運が良かっただけかに過ぎないのだから。
私は百年以上も前から隊長をしている、いわゆるベテランというやつで。
その間に何人もの部下を無くした。
悲しくないと言えば嘘になるが、誰もが覚悟を決めて入ってきたのだ。
悲しくとも涙は流さない。それが上官が部下に対して出来る最高の餞(はなむけ)であると私は思っている。
実際には思っていた。

同じ死神が死んで初めて泣いた日があった。
悲しくて泣いたのか、悔しくて泣いたのか、今ではもう分からないが。
涙が枯れるまで泣いた。
一日で私は、友7人と1人の恋人を亡くした。
その亡くし方が異常だったからか、恋人を愛しすぎて心を奪われてしまっていたからか。

その日から私は一切涙を流さなくなった。
正確にいうと流せなくなった。
本当に涙が枯れてしまったからか。それとも「悲しい」という感情がなくなってしまったからか。
どちらにせよ、もう私には関係ないと知っていた。

その日から私は人を愛さなくなった。
色々な人から迫られる。
尸魂界でも一応、人気はあるらしい。
そのせいかは知らぬが、名も知らぬ下級隊士にまで迫られる始末だ。

だが、今回だけ、一瞬揺らいでしまった。
同じ名前だった。
私のかつての恋人と。
字が違えども、同じ名前であるのには違いあるまい。
勿論、違う人物だ。


顔も、髪も、声も、匂いも、身長も、体つきも全部


違う


はずだ。



だが、もう百年も前の話だ。
私の記憶する恋人はもう薄れてきている。
記憶とは怖いもので。
声も、匂いも、
思いだせぬ。
覚えているのは、彼のぼやけた後ろ姿だけ。






「もう終いにすべきかも知れぬな…真子…」






この百年、闇夜にいた私は…
もう潮時なのかも知れぬ…
この目が、身体が、光を欲しておるのかもしれぬ。
百年ぶりの夜明けへ…








alba