様!?お身体はもうよろしいのですか!!?






    あの決戦から約一か月。
    やっと自宅療養が許された私は、真子と共に屋敷へ帰ってきた。
    邸の門をくぐると慌ただしく、小柄な女性が走り寄ってきた。









    紅蓮の愛


    41.失われたレコード









    一番隊隊士である斉藤天音(さいとう あまね)は家の従士であった。
    戦闘も勿論のこと、家事全般も完璧にこなせる。
    そんな彼女が専属の従士となって早100年が経とうとしていた。










    「天音、少しは落ち着け…私は大丈夫だ」
    「はぁ〜!本当に心配させないでください…すぐにお茶のご用意を…
     えーっと…そちらの殿方はもしや平子真子様…?」
    「あぁ、そうだ」
    「お!俺のこと知ってんのか?」
    「百十年前は霊術院に通っておりましたから……様」
    「ん?」
    本当に、良かったですね
    「…あぁ」









    私たちは天音の背中に付いて、家の中に入った。
    居間にてお茶でも啜れるのかと思いきや、すぐに自室に連行され、布団に寝かされてしまった。










    「…天音?」
    「四番隊卯ノ花隊長殿より伝書をいただきました!
     様は今後一か月、療養とのことで、出勤禁止でございます!」
    なっ!?
    「平子様、様のお目付役をお願いできますね?」
    「まぁ、怖い従士やのう」
    「いいですね!?でなければ、この屋敷から追い出します故」
    「はいはーい」
    「返事は一回、でございます、平子様!」
    「…はい」










    天音はそれだけ言い、「では、ごゆっくり」と部屋から出て行った。
    やっと静かになった部屋。
    私はクスリと笑った。









    「どないした、?」
    「いや、真子も天音には何も言えんかったのか、と思ってな」
    「あー…あない強気な女は苦手や」
    「それは私も、か?」
    は別や!ってか一緒やと思ったことは微塵もない!」
    「はは!そうか…では…」









    バッと布団から起き上がると、自室から出た。
    「おい、!?」と真子の制止も聞かず、庭先に延びた長い廊下を歩く。
    家の庭は大貴族の中でも群を抜くほど花の種類が多かった。
    冬に差し掛かろうとしている今は、紅葉の赤が目を差した。

    一番奥に蔵があった。
    物置として使っているのだろう、その中でも一番古い、
    ここ数十年誰も触れてはいないような蔵の前では止まった。

    鍵はなかった。
    ただ、扉に触れると、自動的にドアが開いた。









    「へ〜、ハイテクやな」
    「浦原がまだ隊長だったころ、作らせた。
     この蔵だけは私の霊圧でしか開かない。」









    中は少し埃っぽかったが、古びた感じはしなかった。
    温度・湿度ともに一定に管理された空間だった。









    「同じような部屋が三番隊の貴賓室にもあってな、それはここを模して造らせたそうだ」
    「三番隊とか、ローズがおったときでもそない行ってへんかったなぁ」
    「しかもそこはローズの秘密部屋だ」
    「…何してんねん、あいつ」
    「ふふ!そこまでは知らぬ。…これだ」











    大きな箱が数個、置かれていた。
    はその前で立ち止まると、真子に言った。









    「…そなたの私物だ」
    「へ?俺の?」
    「あぁ…処分される前に私がここに運ばせた」











    そこには真子が好んで使ったいた音楽の再生機やレコード盤などが綺麗に保管されていた。









    「あー!!これ、俺が一番好きやったやつやん!
     現世はもうあらへんねんこれ!!」
    「そうか。それなら置いておいてよかった」
    「……」
    「ん?」
    「…あとでちょっと、話そか」
    「うん」








    私は、大事そうにレコード盤を持つ真子の姿をじっと見つめていた。










    2016/11/14