「卍解…響凜鈴神楽…」
私はそう呟いた。
紅蓮の愛
36.幻影
藍染たちが現れる前、大きな黒腔が現れていた。
ハリベルを倒した後、私は虚無な目でその黒い腔を見た。
「…新手か!?」
「十刃の頭三人に加勢できるようなのがまだ居るっての?
考えたくないねぇ…」
「ふふふ…ならば私がすべて斬ろうではないか、浮竹、京楽よ…」
「ちゃん、大丈夫?目が笑ってないよー」
「今はすこぶる調子がいい。おぬしらも、早いこと片を付けろよ、でないと…」
この鈴神楽の餌食になるぞ…
そう言いかけた時。
ゾクッと背中を悪寒が走り抜けた。
黒腔から出てきたソバカスの破面。
後ろに控えるのは得たいの知れない生き物だった。
そしてソバカスの破面が奇声を発した。
その音は、私の「境界」を全て薙ぎ払った。
「!?」
『主…』
「あぁ…禁忌の舞を「声」だけで消し去るとは…よほど大声だな」
『アレにはきっと聴神経がないな』
「ふふ…ならば斬るのみ」
いざ刀を構え、空気を蹴ろうとしたそのとき。
後ろの生物が、藍染たちを囲んでいた炎を吹き飛ばした。
私の目の前に藍染たちが姿を表した。
市丸も、東仙もいるはずのに、私の目には「藍染」しか映っていなかった。
そして、私は、卍解の言葉を呟いていた。
※ ※ ※
「貴女の卍解がこの目で見れるとは思っていなかったよ、隊長…」
藍染の声が空気を揺らす。
だがそれは、「音」としてではなく「振動」として、周囲の者には伝わっていた。
だから聞こえはしない。
ただ、風が吹くように、葉が靡いているような感覚にしかならない。
の姿は今や、「音」を表したように優美だった。
ある人には、煌びやかに着飾った花魁のように見えるだろう。
ある人には、十二単を纏った姫君のように見えるだろう。
ある人には、鎌を持った女狐のように見えるだろう。
それは決して、見ることのできない「音」なのだ。
『見た、と言ったか?』
「…」
『私を見たと言ったか、藍染惣右助…』
「…あぁ、見えているよ」
『なんと、哀れな…』
は、知らぬ間に藍染の右腕を切り落とした。
「!?」
『今の私を「見る」ことなぞ決してできない』
「な…っ…」
『私は今、貴様ら3人の聴覚を奪った。聴覚とは即ち心の目を指す。
心が見えねば私を見ることは叶わぬ。貴様に映る私は幻影…
貴様の身体を切り刻み二度とこの目に触れぬようにしてやろう…!』
私は刀を振り上げた。
刃は藍染の左腕を切り落とした。
はずだった。
口の中に血を感じ、吐き出した。
目の前には藍染がいた。
後ろを振り返るとそこにも
藍染がいた
後ろの藍染がニヤリと笑い、こう「音」を発した。
「君はいつから、それを『私』だと認識していた?」
2016/10/30