その夜からはあっという間だった。







紅蓮の愛


31. 壊れる心





眠れぬ夜だった。
身体が痛むからではなく、ただただ心配だった。
胸騒ぎが収まらなかった。





真子…ッ!?






一度だけ、真子の叫び声が聞こえた気がした。
私は空を見た。
そこにはいつもと変わらない月が浮かんでいるだけだった。

明朝早くに、私の耳に届いた報告はとんでもないものだった。






十二番隊隊長・浦原喜助、鬼道衆総帥大鬼道長・握菱鉄裁が中央四十六室から強制捕縛命令が出され、連行された。
罪状は、

前者は禁忌事象研究及び行使・儕輩欺瞞重致傷の罪により霊力全剥奪の上現世に永久追放
校舎は禁術行使の罪により第三地下監獄“衆合”に投獄




それを聞いてすぐ、私は二番隊の夜一の元へ向かった。
身体を引きずりながら向かったそこに、夜一の姿はなく、彼女が二度と戻ってくることはなかった。

禁忌事象というのは死神の“虚化”というものらしかった。
聞いたこともない言葉に、理解するのに時間がかかった。
だが、唯一すぐに理解出来たことは、真子たちがその実験台にされ、“虚”として厳正に処理されるということだった。
これに対しては四十六室に抗議しようとした。
まぁ、取り合ってはもらえなかったが。

夜一は、喜助を逃がすのに手を貸したらしく、彼女も現世に永久追放となった。






以上のことが、一日で起こったことだった。
訳も分からず、詳細も知らされず、「平子真子は虚として処理された」という事実だけが残った。

無意識のうちにたどり着いた先は、五番隊隊舎の執務室だった。
中に真子はおらず、代わりに筆を忙しそうに動かす藍染の姿があった。








「ん?
 あぁ…隊長、大丈夫なんですか?」
「…」
隊長?桐生副隊長はどうされたんです?」
「貴様が…私を刺したんだろう…?」
「…え…?」
「貴様が、私を刺したんだろう!!??








一気に藍染に迫る。
霊圧は、ない。
何故か私の霊圧は失われてしまっていた。
卯ノ花の話によると、一時的なものだろうということだったが、霊圧がないと刀も鬼道も使えない。
私は素手で、藍染の胸ぐらを掴んで、壁に押し付けた。








…隊長……ッ!
「貴様が…私を…何故だ、何故!!!
「ご、誤解でしょう!!私は現世など行ってない!」
嘘を付くなッ!!!








私たちの大声に気付いた五番隊隊士が止めに入り、誰かが颯を呼びに行った。
私は五番隊隊士に取り押さえられながも、狂気的な目を藍染に向け続けた。







貴様が…!!私を…
隊長、誤解です。平子隊長のことは残念に思いますが、私を恨むのはお門違いというものです」
「…私が、間違っているとでもいうのか…!この私が…!貴様の霊圧を…護廷隊隊長格の霊圧を間違えるとでも言うのか!!!

隊長!!!お止めください!!!








急いでやって来た颯は私を抱きかかえると、藍染に謝った。








「藍染副隊長、申し訳ない。隊長は今、精神不安定で…」
「桐生副隊長、問題ないよ。僕もそのへんはわきまえているから」

颯、離せ!!真子の件も藍染が絡んでいる!!
「隊長!!いい加減にしてください!藍染副隊長は最近現世に行ってませんし、昨晩もずっと精霊廷内にいました!」
ッ!!
「一度帰りましょう…身体も心もボロボロだ…」
「…」









無理矢理連れ帰られた私は、隊舎で着いた途端、颯の頬を叩いた。









「…っ…」
「何故だ!何故私を止めた!?」
「…それは隊長が間違っているからです」
「私が間違っている!?何を…」
「…」
言え!!
「平子隊長は死んだんです。藍染隊長のせいじゃない…」
っ!










私はその場に崩れ落ちた。涙は出ない。
色々なことが走馬灯のように駆け巡った。
真子たちとの楽しかった日常、夜一と馬鹿をした日。
全てが一瞬で崩れ落ちたとわかった瞬間、私は大声で叫んでいた。











あぁあああぁぁぁぁぁあああっ!!!









その日、私は壊れた。













2016/2/9