昼間のはずなのに、現世はやけに暗かった。
厚い雨雲に覆われて、太陽の光が全く地上に届いていなかった。
紅蓮の愛
30. 雨
佐久間たちはすぐに見つかった。
正確には、佐久間たちが着ていた死覇装らしきもの六着が地面に落ちていた。
それは、雨に濡れて、びちょびちょだった。
「…これは…何故ここでも…」
虚の匂いは勿論、気配もなかった。
ただ、雨に濡れる木々があるだけだった。
しかし、ゾワゾワした悪寒はあった。
だから私は刀を鞘から出したまま、辺りに気を配っていたのだと思う。
ガサッ
後ろの茂みが動いた。
刀を構える。
何も気配はない。
次の瞬間、ドンッと胸に衝撃が走った。
目を見開き、そして、自分の胸に刀らしきものが刺さっているのを確認した。
「がっ…はっ…」
言葉を発しようとすると、口から血が出た。
雨水とともに地面が血で染まり、辺りに鉄の匂いが充満した。
ドクンと鼓動が大きく鳴った。
何かが身体を蝕んで行くような、そんな感覚に、私は叫んだ。
「あぁああぁぁぁぁあああッ!!」
刀が身体から抜かれる感覚、そして地面に身体が打ち付ける衝撃が襲った。
身体が熱い。
朦朧とする意識の中、誰かの話し声が聞こえる。
「失敗だな」
「やはり霊力が高いだけではあきませんね」
「高濃度の霊子の中、高い霊力の者に…」
「だ、れ…だ…ッ…」
「まだ意識はあるみたいですわ」
「流石霊力が高いだけある。だが、その霊力もじきに消える」
聞き覚えのある声が二つ。
そして、またあの視線を感じた。
あの声は…藍…染……?
そこで私の意識は途切れた。
※ ※ ※
気づいたときには慌ただしい部屋の中にいた。
あれを持って来いだの、結界を張れだの、煩い。
「あ…」
「隊長様!!お気づきになられましたか!?」
「こ、こは…」
「動かないでくださいませ!今から緊急手術を…」
「卯ノ花…を呼べ…」
「卯ノ花隊長は現在緊急の隊首会に出ておられます」
「…なに?」
「流魂街の変死事件で急展開があったようでして…」
「!」
「特別隊は桐生副隊長様が出席されているようですので。隊長様は今は…」
「どけっ!!」
「きゃ!!」
私は四番隊隊士を押しのけ、一番隊隊舎に向かった。
「前線の九番隊待機陣営からの報告によれば、野営中の同隊隊長・六車拳西、同副隊長・久南白両名の霊圧が消失。
原因は不明!これは想定しうる限りの最悪の事態の一つである!
昨日まで流魂街で起きた単なる事件の一つであったこの案件は、護廷十三隊の誇りにかけて解決すべきもんとなった。
特別隊隊長・が戦闘不能の今、二番隊以降の隊長格を五名選抜し、直ちに現地へと向かってもらう!」
「ボクに……行かせてください!」
「ならん」
「ボクの副官が現地に向かってるんス!ボクが…」
「喜助!!!」
「!」
「情けないぞ!取り乱すな!
自分が選んで行かせた副官じゃろう!
おぬしが取り乱すのは其奴への侮辱じゃというのが解らんか!」
「…続けるぞ。
三番隊隊長・鳳橋楼十郎、五番隊隊長・平子真子、七番隊隊長・愛川羅武、以上三名はこれより現地へ向かってもらう。
二番隊隊長・四楓院夜一は別命あるまで待機。
六番隊隊長・朽木銀嶺、八番隊隊長、京楽春水、十番隊隊長浮竹十四郎の三名は精霊廷を守護。
四番隊隊長・卯ノ花烈は負傷者搬入に備え綜合救護詰所にて待機せよ」
「お待ち下さい、総隊長。負傷者の処置を考えるのであれば私は現地へ向かうべきではないでしょうか」
「状況が不明である以上、治癒専門n責任者を動かす訳にはいかん。現地には別のモノを向かわせる」
一番隊隊舎に入ってきたのは鬼道衆総帥大鬼道長の握菱鉄裁と副鬼道長の有昭田鉢玄だった。
京楽の一言で矢胴丸リサがメンバーに加わった今、現地へと向かおうとしていたその時、またも隊舎のドアが開いた。
「お、お待ち下さい…!」
「むっ!」
「!?」
真子が私を見て叫んだ。
体中に包帯を巻きつけやってきた私。
包帯のところどころには血が滲んでいた。
「私も、行きます…!」
「ならん!」
「何故です!?現世でも流魂街で起こった現象が我が部下にも起きてました。
この目で見た私が行くのは道理でしょう!!」
「おぬし…自分で気付いておらんのか?」
「…え?」
「霊圧が、普段の半分以下じゃ。そんなお主が行っても足でまとい。ここは任せるべきじゃ」
「しかし…ぐッ!」
私は胸を押さえ、その場に膝をついた。
それを支えるように、真子がやってきた。
「まぁ、俺に任せとき。拳西と白連れて帰ってくるわ」
「そ、そなたが行くのか…!?」
「おう!俺もお前に負けじと強いからのぉ」
「な、ならぬ…!!」
「なんでや?」
「そ、それは…」
真子に藍染が怪しいなど、言えるはずもなかった。
自分の副官が疑われていい気のする隊長などいないからだ。
真子は私の頭をポンポンと撫で、立ち上がった。
「さて。明け方には戻ってくるからな。大人しく寝てや、」
「真子…!!」
「大丈夫や。俺を信じろ」
そう言ってローズ、ラブを連れて隊舎を出て行く真子。
それを心配そうに見送る私の隣に、夜一が立った。
「信じて待つのも仕事じゃ…」
「夜一…隠密鬼道を動かせるか…?」
「は?」
「藍染を、監視しろ…」
「…何故じゃ?」
「私を刺したのは…藍染の可能性がある」
「!?」
包帯に滲む血を見ながら私は呟いた。
嫌な胸騒ぎは、収まることはなかった。
2014/08/31