真子…ッ!!!





そう叫び、私は起き上がった。










紅蓮の愛


27. 過去へ







ビッ、クリ…したぁ
「烈志…?」
「隊長!起きたんですね!卯ノ花隊長呼んできますから!!」









辺りを見回すと、そこは四番隊の救護詰所であることが分かった。
窓は閉じられていたが、木枯らしが吹きそうな、そんな雲が浮かんでいた。
ふと机を見ると、鈴神楽が置かれていた。
手にとって鞘から刀を抜いた。
ボロボロの刃を見て、溜息をついた。









「…何故だ…」
それは貴女の迷いが原因でしょう
「…卯ノ花…」








いつの間にか部屋に入ってきていた卯ノ花はベッドの脇にあった椅子に腰掛けた。
私は自嘲気味に笑い、刃を鞘に戻した。








「はは…本当に刀は私の心を写しているんだな…」
隊長」
「現世に行ってから、体調が良くなかったんだ。
 皆死んだんだと、自分に言い聞かせていたのに…感じたんだ…霊圧を…」
「平子隊長の、ですか…?」
「…私も信じてはおらん!きっと私の間違いだ!でも…でも…ッ!
隊長…彼の姿を見たのですか?」
「いいや…見てはおらん…」
「霊圧というのは、数万人に一人の割合で似た周波を持ちます。
 勿論人間にも霊圧を持つ者もいます。
 今回は平子隊長に似た霊圧を持った者が隊長の周辺にいたのでしょう。」
「…」
「良いですか。
 貴女が今、しなければならないことは藍染を倒すために隊士達を育てること。
 今の貴女にはそれさえも出来ない。
 気持ちを強く持つのです」








顔を上げ、卯ノ花の顔を見た。
彼女は何かを見透かしたような目をしていた。

彼女の過去を知っているものは少ない。
その人が私で、だからこそ、彼女の言葉には重みがあった。








「はッ…!やはり、貴女には負けるよ、卯ノ花…」
「まずは斬魄刀の修復からですね」
「あぁ…まぁ、そこには行きたくないが…」
「ふふ…この程度なら行く必要はないでしょう。今はゆっくり休んで…」
「いや…烈士!!」
「はい、隊長」
「私の部屋から新しい死覇装を持ってきてくれ」









驚いた様子で私を見る烈士と卯ノ花。
そんな二人に私は微笑んで、言った。









「さ、ビシバシいこうかの」










※   ※   ※









数日後、私は総隊長の前に立っていた。
まだ、傷口は癒えていないが、烈士や真田姉妹の鍛錬指導をしている。
そんな中、総隊長に会いに来たのは私の中ではっきりさせておきたいことがあったからだ。

現世で破面と対峙したとき、私はグリムジョーに殺されそうになった。
それを防いだ攻撃は死神のものではない。
虚の霊圧を感じたからだ。
一瞬にして気を失ったが、気を失う瞬間、ふと人影を見た気がしたのだ。





あれはきっと…









や…待たせたのぉ」
「…いえ、こちらこそ、お忙しい中お時間を…」
「良い。して…何か話かの?」
「はい。百年前の事件に関してです」
「…」
「2週間前より私は現世に行っておりました。
 その間、百年前に死んだはずの死神の霊圧を度々感じました。
 昨日にはその人物を…」
よ…百年前の事実は覆らん」
しかし…ッ!それが間違っている場合も…!」
虚化した当時の隊長格は皆、処分された!
!!
「おぬしも書類に署名したはずじゃ…」
「…」
「藍染の行動理由が分かり、百年前の話が蒸し返されるのも分かる…
 じゃが今は尸魂界を、現世をどのようにして守るのかを先に考えねばならん…
 それはおぬしが特別隊隊長であり、の当主だからじゃ…」









それだけ言うと、総隊長は後ろへ下がろうと私に背を向けた。
そんな背を見て、私は最後に口を開いた。









「総隊長…この戦いを終えたあと、私はあの要請を受けようと思います」
「…どう言う意味じゃ?」
「それは総隊長が一番お分かりかと」
「…」
「整理は全て整えてありますので」
「…こちらには戻ってこれぬのだぞ?」
「とっくの昔に、未練などなくなりましたよ」









そうして私は、決戦の日を迎える。






決戦の前日、私は眠ることができなかった。
こんなに緊張した空気の中、誰が眠ることなどできようか。
布団から起き上がった私は、ふと縁側に腰を下ろした。
真っ暗な空には丸い月がぽっかりと浮かびながらこちらを見ていた。








「いよいよか…」







そう呟いた時、誰かが廊下を歩いてくる気配を感じた。
角をじっと見つめていると、そこからは烈士が現れた。
私と同じで眠れないのだろう、顔は冴えていた。








「隊長もですか?」
「まぁな…生憎、こんな夜にまで寝られるような図太い神経は持ち合わせておらぬ」
「あは…俺もです」
「まぁ座れ。月が綺麗だぞ」







無言で私の隣に腰を下ろす烈士。
ややあって、彼は静かに口を開いた。








「平子真子って…誰ですか?」

「隊長、その人物の為に戦ってるんですよね?」
「…」
「その人物って…」
「随分前に死んだ。
 この話を知るものは随分減ったが…
 おぬしは知る権利がある…
 何故なら、明日は私の背を守って貰わねばならんからだ」
「…」
「少々長くなるが…聞いてくれるか?」
「…この時を待っていました、隊長」









まっすぐに私を見つめる烈士。
そんな部下の目を見て私は微笑み、口を開いた。








「あれは…百十数年前の事だ…」


















2014/06/08