日番谷たちが居候しているという井上織姫の家に向かった。






紅蓮の愛


25. 鈴の付いた簪









玄関のドアが開きっぱなしでなんとも物騒な家だ。
土足で上がり込む場所ではないのだろうと、誰かの靴の横で私も靴を脱いだ。








「あ、隊長!どうしてここに?」
「あ、いや…あそこ、玄関だよな?」
「そうですよー!織姫の家、せっまいですよねぇ!
 隊長の家のトイレくらいの大きさしかないんじゃないですかー?」
「お前、人の家だぞ」
「いやぁ!隊長も心の中ではそう思ってるくせにぃ!」








わーわー言っていると家主が帰って来た。
織姫は不気味な画面を見るなり「かっこいい…」と呟いたが、すぐにおかしいと気づいたようだった。

画面に映ったのは大きな総隊長。
そこで日番谷や乱菊、そして織姫に藍染の真の目的が語られた。
私は一夜早く総隊長から聞いていたため、驚きはしなかったが、
それを聞かされた3人は相当驚いた様子だった。
なんせ、この空座町がごっそり世界から消えてなくなるというのだから。









「決戦は冬!それまでに力を磨き、各々、戦の支度をを整えよ!」
「「」」
「まだ卍解に至らぬ者はの力を借り、その力を身につけるだけの努力をせよ!」
「は、はい!って私のことじゃーん…」
「よいな、松本」
「は、はぁ!」









クスッと笑うと、そのまま部屋を出て行った。
外の廊下で待っていると、急いだような織姫が出てきた。








「織姫」
「わわ!さん!びっくりしたぁ」
「そんなに急いでどこに行く?」
「総隊長さんに…さっきのことを黒崎くんに伝えてほしいって言われて…」
「…一護のところへ行く、と」
「そうです!」
「…じゃあこれを…渡してくれぬか?」
「これですか?黒崎くんにですか?」
「あぁ。まぁ、欲しいというやつにやってくれ」
「…へ?」









スッとある物を織姫の手のひらの乗せた。
織姫はそれを不思議そう見つめたが、自分の任務を全うするためにすぐに駆け出した。









※   ※   ※








その頃、一護のいる廃工場では一護が虚化保持訓練を行っていた。








「4秒」
早っ。これだけは時間かけなしゃーないな」







一護が訓練をしている中、ハッチが何かを感じ取った。
誰にも破れるわけのない結界が破られたのだ。
スッと通り抜けるように…

全員が入口に視線を向け、謎の侵入者を待った。
一人は刀に手をやり、一人は足に力を入れる。
しかし、全員の緊張感を全く感じない人物が入ってきた。








「す、すいません…おトイレどこですか…?…なんちゃって」

あ!?
「『なんちゃって』って言ってるやん。ジョーダンや。
 キレんな、拳西」
「俺だったらこの状況で『なんちゃって』は言えねーけどな…」







織姫は一護の伝言の全てを話すと、暫しの沈黙が訪れた。








「大丈夫だ。藍染は俺が止める」
「…」
「俺はまだ強くなれる。…今、そう感じてんだ。
 …教えに来てくれてありがとな、井上」
「…う、ううん!黒崎くん、頑張って!応援してる…」
「おう!」







そのまま訓練の戻ろうとした黒崎。
その背を見て、「あ!」と井上は声を上げた。







「どした?」
「あのね、これ、さんに渡されたんだ」
「ん?…これって…」
「なんかね、欲しい人にあげてくれって…でも黒崎くん、使えないよね」

ちょっと待て

「「!」」








後ろから聞こえた声に驚いたのか、織姫は軽くビクついた。
声の主は織姫も知ってる人物だった。








「平子くん…?」
「それ、俺がもらってもえぇんか?」
「え?大丈夫だよ?欲しい人にあげてくれって言われたから」
「めっちゃ欲しいわそれ。俺にちょーだいな、織姫ちゃん」
「うん。どーぞ」








チリン、と軽く鳴る鈴。
「それ」は織姫の手から平子の手に渡った。

織姫が帰った後、平子はずっと「それ」を見つめていた。
その様子に気付いたローズが彼の背後からそっと平子の手の中を覗いた。








「ねぇ真子…それって…」
「あ?勝手に見んなや」
「ねぇ、バレたの?」
「…」
バレたんだね
「…かもなぁ」
「バレてるじゃん、絶対。
 それ、ちゃんに君がプレゼントしたヤツじゃないの?
 彼女が織姫って子にそれを託したのって、それが君の手に渡るって分かってたからだよね」
「…」
「真子、僕たちは…」
わぁーっとる
「!
「わぁーっとるわ、そんくらい。俺が一番分かっとる。
 余計なお世話や、ローズ」
「…そ。
 それならいいんだけど」








ローズがいなくなってから、真子はハァーっと大きく溜息を付いた。
下ではズガーンと一護が岩にぶつかっていた。




チリンと小さく鳴る鈴の付いた簪(かんざし)。
それは平子がに送った最初で最後のプレゼントだった。
平子自身、これがまだ残っているとは思ってなかった。
それよりも、こんな古びた簪をまだ使っていたなんて、信じられなかった。








「…全部終わったら…言ってもえぇんかのぉ…」










まだ…愛してるって…言ってもえぇんかのぉ…















2014/01/10