校舎を後にし、私は現世の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。








「…残り香か…」






紅蓮の愛



21  逆鱗の隣に








たいちょーう。私たち、一護の家に行きますけど」
「あぁ…私は行くところがあるから…あやつへの説明を済ませてくれ」
「はーい。わっかりましたぁ」
「乱菊、この男どもを任せたぞ」
「任せてください!どーんと私が付いてますから」
「ふふふ…それはそれは…頼もしい」
隊長、大丈夫ですか?顔色、悪いですけど」
「気にすることはない。おぬしは自分の仕事をしろ」
「はい」








私は一人、とある場所へと向かった。







「おーい、ウルルー!!飛んだぞー!!」
「…ジン太くん、飛ばしすぎ…あ…」







パシッ






剛速球で飛んできたであろう野球ボールを私は素手でつかんだ。
あと一瞬、遅かったら顔面直撃、というわけだ。







「こんな剛速球、よく投げられるものだ」
「あ…あぁ…ッ!!て、てんちょー!!!

「そうだ。さっさと『店長』という奴を呼んでくれ」







私は微笑みを浮かべながら、ボールを「ウルル」と呼ばれた少女に手渡した。






「さて、これは返すよ」
「…あ…」






『浦原商店』と書かれた古い家屋の奥には駄菓子が多く並んでいる。
私はその風景を目を細めて見回した。
すると、奥からガタイの大きな影がこっちへ向かって来た。








「コラ、ジン太殿!店長は今、お昼寝ちゅ…あ…あぁぁっ!!貴女様は…!
「久しい顔だ…さっさと『店長』を叩き起こしてはもらえぬか、握菱鉄裁元大鬼道長
「…どうぞ、中へ」







部屋に上げてもらってお茶を飲んでいると、まだ寝起きといった顔の『店長』が居間へ入ってきた。
ズズッとお茶を啜る音と、『店長』が座るのは全くの同時だった。








「お、お久しぶりっス…サン」
「よくもまぁ、寝起きの顔で出てきたな、浦原喜助」
う…
「ここに私が来た理由が貴様に分かるか」
「…勿論っすよ。サン」







彼は被っていた帽子を取った。
そしてその頭を私の前で下げた。







「本当に…申し訳ありませんでした」
「…」
「あの時は…どうすることもできなかった…ッ!
 彼らを…どすることもできなかった…ッ!
「…もう良い」
「…」
「その話は向こうで夜一に聞いた。おぬしらが一番悔いておったことも。
 もう百年以上も前の話だ。おぬしが頭を下げたとき、全てを許そうと決めて、こちらへ来た」
「…はい…」







私は微笑んで喜助を見た。







「さぁ、久しぶりの現世だ。満喫したいのでな。私をここに泊めろ。」
「…はい?」
「自分の寝床は自分で見つけろと阿近の奴に言われてな。本当に冷たい奴だ」
「え、ちょ、サン!?
「空いてる部屋くらいあるだろう」
「そ、そりゃ、まぁ…作るくらいなんとでも…」
「では作れ。こちらにいる間はそこで寝泊まりする。風呂、借りるぞ」
「はぁ!?」
「私が風呂を上がるまでに作っておいてくれ」
「え、ちょ!?
「総隊長からの言伝は私は風呂を上がってからにしよう」







あたふたする喜助を置いて私は廊下に出た。
歩き出そうとしたとき、ふと、喜助の方を向いた。







「そういえば…一護の学校に行ったとき、懐かしい匂いがしたんだ…」
「…おや、また、何の匂いですか?」
「いるはずのない者の匂いだ…」
「…」
「それに、久しい名も聞いた…それは偶然の一致にしか過ぎないが…」
「…そう、っスね」
「喜助よ、私に隠し事はあるまいな?」
「…どういう意味っスか?」
「ふふふ…いや…深い意味はないよ…ただ…







私は髪留めに手をやった。
鈴がチリンと静かに鳴ったのと同時に、日が陰り、風がざわめいた。








「ただ…もし隠し事をしていて…それがある境界を越えたものならば…
 私はおぬしを…殺してしまうかもしれぬ…
「…あ、ははは!サン、冗談が上手いっスねぇ!
「ふふふ…だろう?では、部屋を頼んだぞ」
「ほいな〜!」








が消えたあと、喜助の顔から笑顔が消えた。
ひょこっと庭から出てきた鉄裁は心配そうな顔で喜助を見た。








「店長…」
さんには、厳しい現実ですけど。彼女には戦ってもらわなければ…」
「…ですが…!」
鉄裁サン。彼女の戦闘能力がどれほどのものか、知っているでしょう?」
「…」
「今、現時点で零番隊に匹敵する実力を持つ彼女を失うことはできない」















2013/03/14