四番隊に入院している間、多くの人が見舞いにきた。







紅蓮の愛


15 枯れぬ花があるのならば








隊長…」
「烈志、身体はもう大丈夫か?」
「はい…」
「真田姉妹はどうだ?」
「もう退院して自宅療養です。」
「そうか…あやつらには無茶を言った。」
「話によれば、藍染・市丸には初期の段階から気づかれて、ずっと監禁されていたそうです」
「…そうか。おぬしらにはずいぶん無茶を言った。
 全部、自分のためだった。人が死ぬのを見たくないという己の弱さ故だった。」
「…」
「すまぬ…烈志…こんな私が隊長で、すまぬ…」









烈志が来た日の午後、一護がやってきた。
その後ろから、ルキアがひょっこり顔を見せた。









「あぁ…一護にルキア…もう身体は良いのか?」
「あぁ。今日はさんに礼を言いに来たんだ」
「礼?私に?」
「オレたちを助けるために色々やってくれてたみたいだし」
「ふふ…全部空回りだったが…」
隊長、お体はいかがですか?」
「もう平気だ…心配してくれてありがとう、ルキア」
「!今…私の名を…」
「白哉坊の義妹だ…あやつが大切にしてるもの故、私もおぬしを大切に思おうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「黒崎一護か…よい名だな」
「あぁ」
「一護の『護』は護る、という字か?」
「そうだけど、何かあるのか?」
「男は女を護るために生まれる…」
「え…?」
「私の尊敬する人が言っていた言葉だ。
 女は男に護られるために生まれる…
 だから…おぬしは…女を護れるような男になれ」








私の微笑みを見て、二人が顔を赤らめた。







「ん?なんだ、二人して顔なぞ赤らめて…」
さん、ありがとな!じゃあ!」
「ちょ、一護!?」
「ふふ…おぬしは行かんで良いのか?」
「いえ、それでは…お体にお気をつけてください!隊ちょ…」

「ぇ…」
、で良い。おぬしの兄なぞ、子供の頃から呼び捨てにしておる」
「で、では…隊長…また見舞いに参ります」
「ふふ…」









そうして一護たち旅禍は尸魂界を去った。
その見送りのために私は、双極の丘に出向いた。







、もう身体は良いのか」
「あぁ…友の見送りさえさせてくれぬのか、夜一よ」
…」
「今回は一緒に呑めなんだ故、次は私が現世へ赴くとしよう」
「…あぁ!おぬしをべろんべろんに酔わしてやろう!!」
「ふふふ…!おぬしより酒は強いと自負しておるがの…!」







私は黒猫の前足を取った。
それが夜一との別れの挨拶だった。







「じゃあな、一護よ」
「あぁ。色々、ありがとな。さん」
「また会える日を楽しみにしておる」
「おう!」








こうして、一護たちは去って行った。








***







「あ!たいちょー!こっち来て呑みませんー?」
「…乱菊…?」





一護たちが帰って数日後、私はふらふらと瀞霊挺内の商店街を歩いていた。
たまに散歩がてら歩くことが度々あったのだ。
すると、昼間っから呑み屋で呑んでいる乱菊に呼び止められた。







「おぬし、昼間っから呑んでるのか?」
「いやぁー。修平が暇そうだったんで。で、呑みません?」
「ちょっと乱菊さん!!隊長誘ってどーするんですか!」
「よし、私も混ぜろ」
「その意気ですぅー!」
「え!?隊長!?身体の具合とかいいんスか!?」
「構わん!最近呑んどらんかった故、今日は呑もう!」
隊長、最近ノリいいですねぇ〜」







呑み屋の暖簾をくぐると乱菊・修兵、そしてすでにべろんべろんになった吉良がいた。







「…もう吉良は落ちたか!」
「そうなんですよ〜!こいつ、ちっとも強くないんですぅ〜」
「私は強いぞ!乱菊!」
「きゃー!!頼もしいお言葉!呑みましょ、呑みましょ!」







それから数時間後、乱菊に勧められるがままに呑まされていた修兵が落ちた。
私も少し酔ったのか、顔が火照ってきたように感じた。
横にいる乱菊もすでに顔が赤い。
時間を見ると夜の9時を回っていた。
私が来たのは夕方の4時くらいだったから、かれこれ5時間は居座っている。







「そろそろ、お開きにするか、乱菊」
「え〜!!!」
「おぬし、さすがに呑み過ぎだ。冬獅郎を呼ぼう。
 修兵と吉良は…恋次に頼めばよいか」
たいちょ〜…どうやったら強くなれるんですかぁ〜?」
「は?そりゃ、鍛錬しか…」
「ちがいますぅ〜。女としてですぅ〜」
「…」
「私はたいちょーみたいに…なれません…」
「…おぬしは強いよ…」








乱菊は恐らく市丸のことを言っているのだろう。
市丸のことはよく知らぬが、乱菊のことは良く知っていた。
たまにお茶に誘われていたからだ。







「へ?」
「おぬしはまだ泣いておらぬだろう?強い証だ…」
「…」
「私なぞ、狂うほど泣いた。もう二度と、目から水分など出ないのではないかと思うくらいな。
 心配せずとも、おぬしは強い。」
「…」
「さて、店主!通話機を貸してはもらえぬか。十番隊の日番谷と六番隊の阿散井を呼び出したい」







私が連絡をし、熱いお茶を飲もうとした瞬間、冬獅郎が現れた。
おそらく連絡を聞いて、瞬歩でやってきたのだろう。
眉間には皺が刻まれている。








「おぉ…早いお出ましだな」
「ったく…上司を使うんじゃねぇ、松本!!」
「寝てるぞ」
「…手間をかけてすまない、
「良い良い。私もこれほどまでに呑んだのは久しぶりだから楽しかった…でも…」
「…どうした?」
「ん?いや…酔えぬなぁ、と思うてな」
「酔ってないのか?」
「ふふ…酔ってるように見えるか?」
「え、いや…ちょっと顔が赤いだけ…かな」
「そうか…私は奴がおらぬと安心して酔えぬのだ」
「…奴?」
「あぁ…して、冬獅郎…おぬしの連れの具合はどうだ?」
「雛森のことか?連れじゃねーよ」
「ふふ…」
「…あとはあいつ自身の気持ちの持ちようらしい」
「冬獅郎…女子(おなご)は護られるために生まれる」
「は?」
「男は女子を護るために生まれる。そうできておるのだよ」
「…」








そこまで話すと恋次が暖簾をくぐって入ってきた。
初めに私と冬獅郎を見て、それからぐたーっと眠る吉良と修兵に目をかけた。








「どうしたんスか、一体…」
「あぁ。呑んでた」
「呑んでたって…隊長、なんともないんですか!?」
「私を舐めるなよ。それにしても修兵と吉良を見ろ。
 副隊長のくせに、だらしないのぉ」







ずずーっとお茶を啜る私を見ながら、恋次はめんどくさそうな顔をしていた。
すると、冬獅郎が乱菊を抱えた。
子供のくせに隊長だけあって、力はあるようだ。







「手間かけたな、
「あぁ。また誘ってくれ、と乱菊に言付け頼む」
「…たぶん」
「絶対だぞー」






そしてシュッという風の音と共に冬獅郎は消えた。






「恋次、おぬしは男だ。こやつら二人くらい、抱えられるだろ」
「え、そりゃ。大丈夫ですけど」
「じゃ、頼む」
「…えぇ!?」
「なんだ、そのためにおぬしを呼んだ。ほれほれ、店の迷惑だ」







そして私たちは店の外に出た。
月が綺麗に輝いている夜だった。







「…隊長」
「なんだ?」
「いや…何も」
「そうか?じゃあおぬしの隊長によろしく言っといてくれ。
 近々、屋敷に出向く、とな」
「は、はぁ…」






そう言って、私は瞬歩で消えた。







これほどまでに綺麗な月夜でも、そなたはいなければ酔えぬよ、真子…







2012/09/11