地獄だった。







紅蓮の愛



13 真実は消えゆる過去へ









皆と藍染の力の差は歴然だった。
阿散井もやられた。
一護もやられた。
私の前に血の海が現れた。

これほどまでに仲間が血を流すのを見たことがあろうか。
これほどまでに力の差を見せつけられたことがあろうか。

否。

私は声さえもでなくなっていた。







「立つんだ、朽木ルキア
 …あぁ、そうか。
 僕の霊圧にあてられて体が弛緩してしまっているのか。
 自分の足で歩かせた方が僕が楽だというだけの話だからね」







まだかろうじて息のあった一護に藍染は話し出した。
この男は一護たちが旅禍としてやってくることまで、
全て見越していたというのか。
一護たちが浦原の命令で朽木ルキアの奪還に来たことまでも話した。

意味が理解できなかった。
何故、この男が旅禍についてこれほどまでの情報を得ているのか。
どうして、浦原について知っているのかが、理解できなかった。








「どういう…」
「な、何を言っておるのだ、藍染」
「あぁ。ここからは君にも関係あるんだ。隊長」

「死神には基本的な四つの戦闘方法があるのを知ってるかい?
 斬術・白打・歩法・鬼道の四つが、それだ。
 だが、そのどれもに限界強度というものが存在する。
 どの能力も極めれば死神としての魂魄の強度の壁につきあたり、そこで成長は止まる。
 つまりはそこが死神の限界だ。
 ならば、そこを突破して全ての能力を限界を超えて強化する方法は無いのか?
 あるんだ。ただ一つだけ。
 
 それは、死神の虚化だ

「「!!」」






私は耳を疑い、目を見開いた。
藍染が言っていることは、本当なのか。
なぜ、こやつがこの事実を正確に知っているのだ?
百一年前のあの時、藍染は副隊長だったはず。
副隊長には詳細は伝えてないはずだった。
しかし今、藍染が話している内容は私でも知らないことだった。
まるで、自分が当事者かのようだった。







「死神の虚化。虚の死神化。
 相反する二つの存在の境界を取り払うことでその存在は更なる高みへと上り詰める。
 理論的にはかねてから存在するとされてきた手段だった。
 僕は特に虚の死神化に着目したんだが…これが中々うまくいかなくてね。
 あぁ…一応、死神の虚化も実験したよ。
 隊長各という強度の強い魂魄を使用しても、やはり成功とは程遠いものだった。」








藍染のニヒルな顔が私を貫いた。
そこで、私は全てを悟った。
この男が、百一年前の事件の全ての当事者なのだと。
真子たちを消したのは、この目の前にいる藍染惣右介なのだと。

それ以降の藍染の話は私の耳には入って来なかった。
その代り、何かが私の中で切れた音がした。
その時、それはもう繋ぐことはできないと悟った。

私は霊圧を最大限に上げ、市丸の手を逃れた。
一滴の涙が頬を伝った。
しかし、そのあとは怒りと憎しみが私を支配した。







…藍染!!私は貴様を許さぬ!!
「あぁ…時間がないんだけどな」







そう言いながら口角を挙げる藍染に、私は刃を向けた。








響け…鈴神楽








大地が波打つ。
音波系最強の斬魄刀、それが私・の持つ鈴神楽だ。
大地の息吹を味方につけ、敵の全てを支配する。









「最後に君の鈴神楽の音色を聴けて良かった」
「貴様!!許さぬ!!貴様はここで、私が殺す!!
 演舞・舞姫!!









一瞬、大気の鼓動が聞こえた。
藍染には私が見えていないはずだった。
「舞姫」は生き物の全てが最も重要視する五感を支配する。
そこで待ち受ける「流斬撃の壱・千柳(せんりゅう)」。
家に伝わるもので、同じ隊長各でも全てを躱すのは不可能だ。
だが、藍染はほとんどを躱し、まだ笑みを浮かべている。
しかし、一撃だけ、掠ったのか、頬から血が滴り落ちた。







「…何故それほど躱せるのだ…!?」
家の強さは素晴らしい。
 やはり、百一年前のあの日、君を殺しておくべきだったよ」
!?
「覚えているかい?君は大怪我を負ったね?
 あの虚も僕の実験体だよ。本当は死ぬはずだったんだ、君は。
 君のせいで平子隊長たちは死んだんじゃない。全て僕の想定内の出来事だったんだよ。」
…嘘…








一瞬の隙だった。
私を藍染の刃が貫き、私の身体は斬り裂かれた。
鈴神楽が私の手を離れ、地面に刺さった。
私の身体は無残にも地面に叩き付けられ、大きな血だまりを作った。








「なんと、特別隊隊長でも僕には敵わないようだ。」








ひどく寒い。
闇とは、これほどまでに寒いところなのか…真子…


最後に、藍染の声が耳元でこだました。









2012/09/05