オレは何をしてるんだ…

隊長を裏切って…







紅蓮の愛




08 裏切りと志










特別隊第五席・梶郁斗は中央閲覧室にいた。
この旅禍騒ぎの中、閲覧室に来る者はおらず、管理人でさえ、いない。
施錠さえすれば大丈夫だと鷹を括ってるのだ。
これくらいの錠、五席にもなれば難なく開けられる。

梶郁斗は配置命令を無視していた。
本来ならば北西区1辺りを見回っていなければならない。
そこは、懺罪宮に近い地区の一つだ。
旅禍の目当てが罪人・朽木ルキアであるなら、
郁斗の行為は特隊を裏切る行為である。

しかし、郁斗は気になっていたのだ。
藍染惣右介に言われた一言を…








くんの過去を知っているかい?』
『え?な、なんですか、イキナリ…』
『君はくんによく忠義を尽くしているなぁ、と感心してるんだ』
隊長はオレの憧れなんです!それと、隊長の過去がどう関係あるんですか?』
『まぁ、中央閲覧室〈へ〉の0を調べてみるといいよ』
『え?』
『忠義を尽くす隊長の過去も知っておくほうが、より彼女を理解できると思うよ』








そこまで藍染隊長を信頼しているわけではない。
でも、そんな話をされると、知りたくなる。
だから、オレは他の目を盗んで、ここまで来た。

中央閲覧室〈へ〉の0とは、奥のほうにある。
俗にいう閲覧禁止の棚が〈へ〉だ。
オレはそこまでくると、古い分厚いファイルを取り出した。
0とは特隊を表す。
特別隊隊長の記録のほとんどはここに記されているらしい。
だが、見るのは初めてだ。








「こんなの、霊術院じゃ習わなかったよ…」







特別隊の過去は霊術院では教わらない。
何故、特別隊が出来たのか、ということくらいしか知らないのだ。
それなのに、自分は特別隊に配属された。
特別隊配属とは名誉あるものだと思っていた。
自分の実力が認められたと思っていた。

だが、ここに記されていることが事実であるなら、
自分はとんだ勘違いをしているのだ。









「特別隊とは…元は凶悪な罪人を集めて作られた特攻部隊であり、
 代々、罪人を裁き続けてきた大貴族・家が隊長を務めてきた…」








そこで、襟首を掴まれた。
ビクッとして後ろを振り向くと、鬼の形相をした烈志副隊長が立っていた。









「ふ、副隊長…」
「何してる、郁斗…?」
「いや…あの…」
「……読んだのか?」
「い、いいえ!読んでません!」
嘘付け!
 お前の配置場所に行ってみたらいねぇから探してみたら…」








副隊長の顔は厳しいままで、オレを見下ろしていた。








「…副隊長は…知ってたんですか」









閲覧室から追い出されたオレは、そこから出てから一言も言葉を発してない
副隊長を見て言った。
少しして、副隊長は口を開いた。









「俺の兄貴は…罪人だった」
「…え?」
「死神になったくせに流魂街での癖が抜けなくってな。ろくでもない奴だった。
 仲間を殺したんだよ。
 そんな兄貴を裁いたのは、隊長だ。
 その時、既に隊長は特隊隊長に就任してた。
 隊長は兄貴を殺したよ。もう、兄貴は更生の見込みなしって判断されたんだろうな。」
「…」
「真田姉妹だってそうだぜ?
 親は死神の力を使って、現世で詐欺を働いた。
 罪のない魂魄を、無理やり虚にして、自分の支配下に置こうとしたんだ。
 勿論、そんなことできやしない。母親は死亡、父親も隊長の手によって殺されたよ。
 まだ小さかった真田姉妹は瀞霊廷内で生まれたにも関わらず『罪人の子』という
 レッテルを貼られ、孤児になった。あ、この話は内緒だぜ?」








なんで、この人は、身内の失態をこんなに清々しく話すことが出来るんだ。
と思った。
瀞霊廷内では、少しの失敗でもすぐに噂が広まる。
そんな狭い世界で、今、副隊長が話したことはとても大きな事件のうちに
含まれるだろう。








「…副隊長は、隊長の部下で良かったですか」
「は?」
「身内の方を殺されて、隊長に忠義を尽くせるんですか!?」
「…郁斗」
「はい」
「お前は何も分かっちゃいない」
「…え…」
隊長は強い。強く、美しい方だ。
 自分の部下を殺すことを躊躇しないほど、強い。
 そんな方こそ、部下に裏切られたときの悲しみに耐えられない」
「…もしかして…!」
「あぁ。
 俺の兄貴も、真田姉妹の両親も、特別隊で、隊長の部下だった。
 あの方は、自分の部下を殺したんだよ。自分の手で。
 そんな方を俺は尊敬し、慕ってる。
 自分の兄貴を殺した奴だって思ったことなんか一度もない。
 隊長は、隊長なりに俺たちのことを思ってくれてる。」
「…」
「だから、お前は裏切るなよ。隊長を」
「…はい」
「今回のことは黙っててやるよ。
 だから、さっさと持ち場に戻れ」








副隊長はバンッとオレの背中を叩いた。
副隊長も真田姉妹も、強い。
それなのにオレは…








「副隊長…」
「ん?」
申し訳ありませんでした!!
「おー。謝るんなら、心の中で隊長に謝れー」
「…」
「俺たちはあの方に仕える忠義を忘れちゃいけねぇんだ」








最後の言葉が、オレの中に響いた。








2012/08/31