何十年ぶりかの流魂街…
私には何の思い入れもない場所だ。






紅蓮の愛






06 旧友→憎しみ








ザッと草を踏む音が響いた。
私の目の前に映るのは「志波空鶴」という大きな文字。
フッと口元に笑みがこぼれる。

あやつめ、まだこんな趣味をしておるのか…

すると、建物の後ろから大男が二人出てきた。








「金の字…おぬしが行ってくれ!」
「銀の字!ここはおぬしが!!」
「いやいや!おぬしが!」
「いーや!おぬしが!」

「すまぬが、志波空鶴に会いたい」

「「ヒィ!!殿!!」」
「二人してそれほど驚かぬでもよかろう」
「あ、し、失礼致した!殿には申し訳ないのだが、今、主は手が外せぬ用で…」
「私が来たら追い返せと言われておるのか。ふふ…私もそこまで嫌われたか」
殿!!どうかお引き取りを!!
「なに、誰にも手を出さぬよ」








私は二人の大男を手で払いのけると、そのまま建物の中へ入っていった。
何十年ぶりだか知れぬが、勝手を覚えていた。
空鶴は必ず、一番初めの座敷にいるのだ。

私が階段を下りると、すぐ、知った声が聞こえた。








「はッ!オレはお前を呼んだ覚えはないぜ?
「ふふ…私も、おぬしに呼ばれた記憶などない、空鶴







バッと襖をあけると、奥に胡坐をかいた空鶴が堂々と座っていた。
私は彼女の前まで進むと、刀を置いて座った。







「いつ見てもの礼儀には惚れるぜ」
「それは皮肉か?それとも褒め言葉か?」
「両方だな」







ニヤつく空鶴を見つめ、私は深呼吸した。







「時間がない故、率直に言う。夜一を出せ
「はっ!お前は昔から勘が鋭かったが、ここまでとは思わなかったぜ?」
「おぬしの後ろに隠れておるのは知っておるのだ。さっさと出てこい、夜一」








すると、スッと黒猫が空鶴の後ろから出てきた。
長い尻尾をピンと立てている。
私は憎しみの籠った目で夜一を見た。








「久しいのぉ、夜一…てっきり死んだかと思っておった」
…」
「白道門で見たときは目を疑った。旅禍に手を貸すまでに落魄れたか」
、儂の話を…」
「まぁ、良い。私は貴様がどうなろうが何の関心もない。
 だが、旅禍は別だ。あの甘草色の髪をした少年…一護、だったかな?」
「…知り合いか」
「まぁな…あれらは朽木ルキアを助けに来たのだな」
「…」
「白道門からの侵入に失敗したら、次に貴様の考えることなど安易に想像が付く。
 だから、ここへ足を運んだ。
 夜一、交渉しようではないか」
「…交渉?」








不信な目で私を見る夜一。
私は一息置いてから、言葉を発した。








「旅禍の侵入の件は不問としてやろう。現世に無傷で帰してやる。
 その代り、即刻尸魂界から立ち去れ
「…」
「どうだ?このままいけば、恐らく全員死ぬだろう。
 この交渉を飲めば、特別隊が責任を持って現世へ送り返す」
「…はっ!馬鹿な交渉だ。あやつらは命を賭けてここへやってきた。
 後戻りなど絶対にせん」
「そうか。以前、あの少年には迷惑をかけた故、助けてやろうと思ったのだが…」








それだけ聞くと、私は刀を掴み、立ち上がった。








「交渉決裂か。では、私が責任を持ってあやつらを始末するぞ」
「…」
「廷内で待っておる」
…!







私が部屋を出ようとしたとき、後ろから夜一が声をかけてきた。
立ち止まり、少しだけ後ろを見た。







「…もう元には戻れぬか」
「それは貴様がよく分かっておるだろう…」







そういって私は襖を閉めた。
外では少し怯えた金彦と銀彦が立っていた。







殿、お帰りですか」
「あぁ…用は済んだ」
「あ、あの…」
「何だ?手は出さぬよ。約束しただろう…」







もうそろそろ、隊首会が行われる時間だと思い、私はすぐに
瀞霊廷内へと戻った。







***






が部屋から出て行ったあと、夜一は深いため息をついた。
空鶴はそんな夜一との会話は無表情で見ていた。






「気を落とすなよ、夜一」
「…気など落としておらぬ。」
「じゃあそんな顔するなって」
「…」
「お前とが仲良かったの、オレが一番良く知ってる。」
「…」
「元気出せって!・四楓院・志波の女姉妹っつったらオレたちのことだ!
 それを誇りに思えば…」
「はっ!何百年前のことだ。儂のことは気にするな。少し、感傷に浸ってただけじゃ」







そういって夜一も奥に消えていった。
その場に残った空鶴は大きなため息をついた。







「…さっさと言っちまえば楽なのにな、夜一。まぁ、言えねぇか…
 、お前は今、憎しみの中に生きてるんだな」





夜一を見るお前の目を見て分かったよ。
悲しい、憎しみの中から出られない目をしていた。







2012/08/27