それから数日後だった。
旅禍が尸魂界に侵入してきたのは。








紅蓮の愛


05 忘れられぬ姿









西方郛外区に歪面反応!三号から八号域に警戒令!






私は飲みかけのお茶を取りこぼした。






「なに!?」
隊長!」
「旅禍だ!烈志、第6部隊を白道門内側に配備!」
「はッ!」

「その必要はないよ」
「!?」
「おはよう、くん」
「…藍染…」







執務室の外側に立っていたのは、五番隊隊長の藍染だった。
私は、つくづくこの男が好きではない。
業務上でしか話をしないが、話をするときは、必ず一歩下がるようにしている。









「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。ここは君の隊舎だよ」
「…では勝手に私の隊舎内に入らないでもらいたい」
「はは…厳しいな。でも今回は、君の隊のために言ってるんだよ」
「…旅禍侵入の場合、何事にもまず、我が隊が動くことになっておる。これは規則だ」
「あぁ、そうだね。規則だ。だが、今回は瀞霊門の外側に落ちたうえに、
 三番隊、八番隊の副隊長が同行した部隊が出ている。わざわざ特別隊の手を煩わせることはない」
「…わざわざそんなことを言いに来たか。」







私は、烈志に手で合図を送った。
彼は無言で、執務室から消えた。
もちろん、それを藍染は見ていたが、視線をすぐに私に戻した。







「これらの事由は我々が総括しておる。勝手な判断はするな」
「副隊長だけを行かせたね。」
「…貴様には関係ない。さっさと私の隊舎から出てゆけ」
「まぁ、君の判断はいつも正しいからね。今回は僕が間違っていたのかもしれない」









そういって藍染は私の執務室から出て行った。
私はため息をついてソファに倒れ込んだ。

あいつをみるだけで頭痛がする…

そして私は息つく暇も持たず、白道門へと向かった。






私は目を見開いた。
なんと、白道門が開いているではないか。
しかも、兒丹坊の片腕が斬り飛ばされている。
その血しぶきの中に立つのは市丸だったのだ。







「そんなら…なおさら、ここを通すわけにはいかんなぁ…」
市丸!!
「…あれ、チャン」
「貴様、何をしておる…!」
「いやぁ…旅禍がな、おったから」






こやつのこのニヤついた笑顔も寒気がする。







「まぁ、待っといてや。もう終わる」
「市ま…!」
射殺せ、神槍







すぐさま、門に目を向けた。
あの現世であった甘草色の髪をした少年が、待ち構えている。
その奥にも数人の人間と、黒い猫。
私はその黒い猫を見逃しはしなかった。
恐らく目も合った。
しかし、市丸の神槍の速さに勝てるわけはなく、そのまま門は大きな音とともに閉まった。






「バイバーイ」

「…市丸、何のマネだ」
「いや、だから旅禍を追い払ったんやないか」
「これで追い払ったと言えるのか!?旅禍は見つけ次第、拘束することが通例だ」
「まぁまぁ…えぇやん」
「…総隊長に報告する。貴様の処罰は総隊長に決めてもらおうぞ」
「おぉ、怖い怖い」






それを聞いた私は瞬時に斬魄刀を抜いて市丸の喉元に当てようとした。
三番隊副隊長の吉良に立ちはだかれたが。







「…どけ、吉良」
隊長、刀をお納めください」
「…市丸、いつか貴様の喉を切り裂いてやる」
「怖い怖い。隊長同士、仲良くしたいんやで、ボクは」
「…」






すると、私の後ろに烈志がやってきた。
私はその気配を感じると、仕方なく刀を鞘に戻した。







「行くぞ、烈志」
「はい」

「あ、チャン♪」
「…」
「お手柔らかに」






そして私は瞬歩でその場から立ち去った。
戻ってきた執務室。
普段は隊士たちがいる官舎内もなぜか閑散としている。
ほとんどの隊員が己の守備配置場所に向かったのだ。








「烈志。おぬしも自分の持ち場に付け」
「…隊長」
「私は少し行くところが出来た。」
「総隊長のところですか」
「それもあるが…おぬしには関係のないことだ」
「…隊長、俺は…」
「…なんだ」
「俺は副隊長です。隊長の無茶な行動を止める役目も担ってますから」








真っ直ぐに私を見つめる烈志の目。
私はその目を見て微笑んだ。








「ふふ…大丈夫だ。無茶などせぬ」







烈志が執務室から消えたあと、私は流魂街へと足を運んだ。










201/08/26