「いつもいつも私が悪いみたいに言って!!」
「だって悪いのは本当でしょ?」
「違うわよ!!葵だっていっつも…」
「それは椿が…」







大きな喧嘩声が開きっぱなしだった執務室のドアを通して廊下から聞こえてきた。
「やっかいなのが帰ってきた…」そう執務室内にいたと烈志は溜息をついた。









紅蓮の愛







02  消えゆく花








その喧嘩声がだんだんと大きくなってきた。
烈志はバンッと執務室のドアを勢いよく閉めたが、あまり効果はないようで、
まだまだ大きくなる。その声が急に止んだその時、執務室のドアが開き、2つのそっくりな顔が現れた。
綺麗に整えられた顔、一人は深い青の髪、もう一人は燃えるような赤い髪の色をしていた。







「また喧嘩か?真田姉妹よ…」
「聞いてくださいよ、隊長!葵ってば、いっつも私のせいに…」
「隊長、違うんです。椿がいつも物を壊すから…」
「葵だって壊してるじゃない!!」
だー!もう煩い!!隊長、どうにか言ってくださいよ!」
「副隊長が一番煩いですよ!」
「それは私も思います」









2人から3人になった喧嘩はもっと煩くなった。
はそんな光景にはもう慣れたのか、何事もないかのように筆を動かし続けていた。
2枚、3枚とどんどん書類を処理していく。すると、は一枚の書類を読み目を見開いた。
手が震え始め、グシャッと書類を丸め、ゴミ箱の中に投げ入れてしまった。
それに気づいた喧嘩3人組はを見つめた。









「隊長…?どうしました?」
「…散歩に行く」
「へ?」








は椅子から立ち上がり、執務室から出て行ってしまった。
烈志と葵、椿はポカンしながらの背を見つめていた。
椿はさっきがごみ箱が投げ入れた書類を拾い上げた。








「これ、さっき隊長が捨てたやつだよね?」
「見ない方がいいんじゃない?」
「副隊長、どう思います?見ます?」
「それ、俺が持ってきた書類の山から出てきた書類だよな?」








烈志は椿の手からその丸まった書類をひったくると、広げて読み始めた。
段々と真剣になっていく烈志の顔を見ていた葵・椿姉妹の顔からも笑みが消えていった。








「…これ、お前らは見ない方がいいな」
なんでてすかー!?
「そうですよ、副隊長。私たちも気になります」
「だってお前らが絶対知らん内容だ。百年前のな…」
「百年前!?そりゃ知らないや。私たち、まだ60年くらいしか…」
「でも副隊長も知らないんじゃないですか?」
「俺は百年前は霊術院生だったからちょっと知ってるけど…ま、この話は終わり!!」
「「えーッ!!」」








烈志は書類を鬼道で燃やしてしまった。
紙は灰となり消えた。







「百年前って…隊長は隊長だったんですか?」
「椿、意味分かんないこと言わないで仕事して」
「副隊長ー!答えてくださいよぉ」
「まぁな。隊長だったな。今と変わらぬ美しさ、っつーやつだな」
「変わらず、ですか!?」
「変わったといえば…」
「言えば?」
「うーん…俺、まだ入隊してなかったからやっぱ知らねーわ!」
はぁ!?
「ほれ、仕事しろ!」









そんな会話をしている時、は隊舎から隊舎へと繋がる一本の廊下をゆっくり歩いていた。
そのまま真っすぐ進めばいつかは十三番隊に辿り着くのだが、幾分遠すぎていつ着くのかは不明だ。
普段は隊から隊へ書類を回すのでそこまでの移動はいらない。だが、廊下を歩いているとやはり隊の雰囲気が
ガラリと変わる節目が出てくる。特隊なら特隊らしい庭園を造る。一番隊なら一番隊らしい庭園を造る。
はその節目を見ながら歩くのが好きであった。これは数十年変わらない趣味であった。








チャン」
!?
「何ソレ。ボクに会う時いっつも吃驚してへん?」
「…市丸か。その呼び方はやめろ」
「ほな、隊長かなぁ…ま、何でもえぇやん」
「…何か私に用でもあるのか?」
「別にー。会ったから声かけただけ。どない?調子は…」
「普通だ…」
「素気なァ…そーいえば、もう百年くらい経つねぇ
ッ!あの書類、貴様が入れたのか!?」
「あの書類?どの書類?」
「…知らぬのなら良い…」
「あ、そうそう。思い出したわ。朽木隊長の妹さん、見つかった?」
「…何故言わねばならぬ…?」
「まぁ、えぇけど。ボクも心配やってん。それにあ…」

隊長!!

「「!?」」
「オレっす!」
「郁斗?」
「急いでるっぽいね。ほな、ボクはこれで…」
「ちょ、市丸!?」








市丸は何かを言いかけたまま、に背を向けて去ってしまった。
郁斗はそんな市丸を見て、ハッと気付いたのか、に頭を下げた。








「も、申し訳ありません!」
「良い良い。私もあれ以上あやつとおれば、どうにかなっておったわ…」
「へ…?」
「で、おぬしの用とは何だ?」
「え…あ!朽木隊長の妹君の件で…」
「あぁ。もう済んだ」
「へ?」
「今日行ったのだ」
え!?マジですか!?じゃあ、そう報告しておきますね」
「…誰に?」
藍染隊長ですよ」
「…何故藍染だ?」
「それはですねぇ、妹君の件は藍染隊長が指揮を取ってるらしいです」
「…気に食わんし、意味が分からんが、命を受けたおぬしを問いただしても意味がないのぉ。
 私は隊舎に戻る故、その報告だけ済んだら一度帰って来い。お茶の時間だ」
「はい、隊長!」








郁斗が消えたあと、は庭園を見た。場所はまだ特隊の領域だったのか、見慣れた小川と錦鯉が見えた。
秋になるとこの小川沿いに隊花でもある彼岸花が一面に咲き誇る。
まるで天国から生えてきたような花…その半面、死人と共に咲き続ける花…
特別隊と同じ運命を背負った花として、が好む花であった。









「もうすぐ…咲くかな…」








まだ夏は、始まったばかりである。




















2011/09/20