現世、空座町…







尸魂街と同じ初夏でもこちらはムシムシと汗ばむ。
それでも時々心地よい風が吹き抜ける。
は、現世に降り立った。









紅蓮の愛






01  庶民VS.貴族








は普通にアスファルトで舗装された道を歩いていた。
もちろん現世の服を着て、本人も満更でもない様子で歩いていた。
そしてふと立ち止まった場所、それが空座第一高校前。
何かを感じるのか、脇目も振らず、一方向へ歩いて行く。
階段を上り、廊下を歩く。夏にも関わらず、コンクリートの校舎は涼しかった。
そして1つの教室の前で立ち止まると、そのドアを勢いよく開けた。
もちろん、教室全員がを見た。も教室の中を見た。
すると一番早く動いた人物がいた。顔を背けたのだ。
は顔に笑みを浮かべ、一言つぶやいた。







「見つけた…」
「ちょ、ちょっとあんた…今は授業中…」
「え?あぁ…授業中だったか。すまぬな…あとどのくらいだ?」
「あと20分くらいでチャイムが…」
「そうか。では廊下で待たせてもらおうか。終わったら声をかけてくれ」







は担任らしき人物にそういうと、またドアを閉めた。








「な、何だぁ?誰か知り合いか?」







そんなこんなで担任・越智はチャイムが鳴る随分前に授業を切り上げてしまった。








「今回は終わり!ちょっとくらい早くても問題な…」
「終わったか?」
早ッ!?ところで、誰に用事が?」
「おぬしには関係ないことだ。さて…こんなところで隠れたつもりか?ん?」
「え…誰に…」
「少し黙っててもらえぬか?こちらも仕事が溜まってる故、さっさと済まして帰りたいのだ」
「は…」
「実にたやすいのぉ…もう少し危機感を持つ気にはなれんかったか?」







はゆっくり教室の中央へ進んでいった。
甘草色の髪の少年を見て、そしてその隣の黒髪の少女を見た。
その少女はずっと、顔を下に下げたままだ。
教室は静かで、その少女の冷や汗が手の甲に落ちた音でさえも聞こえそうだった。







「ふふ…そうか。この私が来るとは夢にも思わんかったか…?朽木ルキアよ」
「…」
「さて。こんな場所で深い話など出来んからな。場所を変えようか…
 顔を上げよ、朽木ルキア。そして付いて来なさい。」
「…はい」
「担任よ、暫し借りるぞ」
「え、あ…」
「ルキ…ッ」
「おっと、そこの甘草色頭の少年も一緒に行こうかの」
!? 隊長殿!そやつは関係あ…
「それはおぬしが決めることではないのぉ…」
「…ッ!」
「ふふふ…名も分からぬ少年よ、暫し私に付き合ってくれぬか?」
「あ、あぁ…」








は教室を出る際、一人の眼鏡をかけた少年に囁いた。








「お父上は元気か?」
「!?」
「それで霊圧を消しているつもりか…まぁ、合格じゃな」
ッ!
「おぬしはお父上によぉ似ておる…」






少年が振り向いたときにはもう、は教室から姿を消していた。
が2人を連れてきた場所は屋上だった。








「ここなら誰も来んだろう…訳を聞かせてもらおうか、朽木ルキアよ…」
隊長殿!!この…黒崎一護は何の関係もありません!それだけを…」
「だからそれはおぬしが決めることではないと言うておるだろう?」
「ッ…」
「結構。…して、少年よ。おぬし、一護というのかや?」
「え、あぁ…」
「一護!隊長殿に敬語を使わぬか!!」
「ふふ…よいよい。一護よ、おぬし、死神能力を持っておるな?」
「あぁ」
「ほれ、困ったもんだ。朽木ルキアよ、おぬし、大罪と知ってのことか?」
「…はい」
大罪?ちょっと待てよ。こいつが俺を死神にしたのは俺の家族を守るため仕方なかったんだぜ?」
「いかなる理由があろうと人間への死神能力の譲渡は私らの世界では大罪にあたる。これは変えられぬ規則だ」









は屋上の手すりから身を乗り出すように街を観察していた。
夏の生ぬるい風がの黒髪をすり抜ける。








「おぬしの兄は規則に厳しい…それは知っておろう?心配しておったぞ?」
「…兄様が私の心配など…するわけありません」
「?」
隊長殿。悪いのは私です。一護は…」
「そうだのぉ…まぁ、これくらい私が上と掛け合ってやろう」
「あ、ありがとうございます!!」
「ちょっと待てよ。さっきからなんでそんなに偉そうに…」
「おい、一護!!」
「ふふふ…本当に何も知らぬのだな?知らんほうがよいこともある」








軽くジャンプしたは、手すりの上にバランスよく立っていた。








「これだけは忠告だ。一護よ…」
「?」
「あまり暴れるなよ…」
「…は?」
「あとは私がなんとかしよう。ルキア、それまで今まで通り、隠れておるのだぞ?」
「は!ありがとうございます!!」
「裏に誰かいるのかいないのか…そこまでは詮索せん…」








そのまま宙を歩く。すぐに帰るつもりだったのか、その場に尸魂界への門が開かれた。








「あと数週間…この街はおぬしらに任せるとしよう…」









そう言っては帰って行った。
その場にはポカーンと未だに意味の分かっていない一護と深々と礼をするルキアがいた。









「なぁ、ルキア…あいつ…何なんだ?」
馬鹿者!!あの方はな、尸魂界で5本の指に入るほど強く、最も美しいお方!女性死神の人気50年連続No.1だ!!
「…は?」
「しかも家は最も古い貴族の中の一つでな、御家柄も最高…文句なしだ!」
「え…貴族?」
「貴様のような庶民とは格が違うのだ!」
「年もな…」
隊長はすでに200歳は超えていらっしゃるぞ」
「…はぁ!?」
「美しかろう?魅力的であろう?無駄だぞ。あの方は誰にもなびかん








ルキア達が教室に入った時にはすでに、は隊舎に戻って椅子に腰掛けていた。
「義骸は肩が凝る…」と肩を回しながら、新たな書類に目を通していた。








「むー…あの一護とかいう少年…誰かに似ておるのだが…誰だろうのぉ…?」














2011/09/20